フランボワーズの手紙

□第一章
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結局定時で帰宅した俺は、マンションのエレベーターに乗る前に溜まったポストの中身を全てかき出した。恐らくこれも、今日の井戸端会議ではバレてしまっているだろう。


呼吸に溜息を混ぜて吐き出し、エレベーターに乗りながら一つ一つ郵便物を確認していく。携帯料金の請求書、不動産からの広告、そして彼女宛の美容院やデパートからのハガキだ。



『――もう彼奴はここにいやせんよ』



そう、ひとりぽっちの家で呟いた俺の声は、帳とともに夜の深さへと沈んでどこかへ流される。まとめてゴミ箱へ突っ込もうかと思ったが、広告の間から一枚の手紙が零れ落ちた。


それを拾い上げて裏返すと、少々懐かしい大学時代の友人の名前が記載されているではないか。宛先は俺と彼奴。この手紙の主は二人の共通の友人だったのだ。


中を開けば、そこには結婚式の招待状が入っていた。結婚する相手の名前と共に日にちと場所が書いてあり、出席か欠席かに丸をつけて出さねばならない。

下の方にはその友人の手書きで、「久しぶり。俺、結婚するんだ。良かったら二人で来てくれよ。」と真っ直ぐな達筆で書かれている。



俺はその手紙を手にしたままヨタヨタと部屋を歩き、ソファに雪崩れるよう座った。鼻から息を吐きながら前髪をくしゃりと掻き回す。そうして彼女と話した最後を思い出した。


彼女は俺に「広告系のハガキは捨てといて欲しい。大切な手紙が来た時だけ、教えて」と言い残したのである。この結婚式の招待状は、大切な手紙の部類に入る筈だ。



携帯をポケットから取り出してメール作成画面を開き、宛先に彼女の名前を登録した。そうして、「結婚式の招待状が届いた」と文字を打ち込んでいく。しかしなかなか送信ボタンが押せず、結局は「ええい、ままよ!」と、目を瞑って紙飛行機のマークを押した。




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