フランボワーズの手紙
□第三章
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友人の結婚式当日。俺たちは、式場のあるホテルのロビーの中にある小さな喫茶店で待ち合わせた。それは「一緒に行かない?」なんてフランクな理由ではなく、単に「沖田」として俺と彼女が招待されたからだ。
受付で名前を書く時、彼女は俺の「沖田総悟」という文字の下に、「沖田リン」と、彼女の性格そのものを表すように真っ直ぐな達筆を書いた。
まだ沖田を名乗る彼女の字に、彼女自身に自分が驚いており、それに気付いたリンは両方の口角を小さく釣り上げて笑う。
『ごめんね。離婚してるって知ったら、折角のお祝い事に水を差しちゃうから……』
だから今日は沖田を名乗らせてくれと頼んだ。
しかし俺にとってはその頼みごとがどこか滑稽な事に思えてしまうのである。名乗りたければ名乗ればいい。沖田の名前を捨てたと思っているのかもしれないが、名字が変わり、旧姓戻ることなど今更になって改めて認識したのだから。
どうやら、本当に俺たちは離婚したみたいだ。
『――それでは新郎新婦のご入場です』
気がついたらもう司会がそこまで進行を進めており、俺は慌てて扉の方へ顔を向ける。そこから入ってきたのは、純白のドレスに身を包みながら艶やかに微笑む女性と、凛々しい顔つきをした友人だった。
いつもヘラヘラ笑っていた彼奴が、まさかあんな顔するなんて思ってもいなく、誰かと家族になるだけで人を変えてしまうことに少しだけ戸惑う。
まるでもう俺の知っている友人ではないような気がして、一体俺は誰の挙式に来ているのか。
しかし、そうは言っても友人の幸せはやはり嬉しいもので、俺は拍手を送る。その時不意に見たリンの横顔。憂いを帯びた目に映る新郎新婦を、彼奴はどのような感情を持って見ているのだろう。
自分の時のことと重ね合わせているのかもしれない。それなら彼女は、あの俺との式を良い思い出と悪い思い出のどちらとして思い出しているのか。
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