フランボワーズの手紙

□第五章
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俺の姿をアーモンド型の瞳で捉えた瞬間、リンはパチクリとその目を見開いていた。


いつも俺が待たせていたから、自分よりも早く来ていて驚いたのだろう。しかし今来たところを装うように注文したコーヒーを飲まずにおいたが、湯気が消えている時点で気づかれている。



店員に注文を唱えた彼女は、俺の目をジッと見つめた。手紙を催促する真っ直ぐな視線に負け、もう少しこの何もない時間を引っ張りたかったが、素直にジャケットの胸ポケットから取り出す。


なにを書いたのか思い出したくない手紙。手渡す時に思わず神妙にかしこまっては眉間にシワを寄せてしまい、慌ててコーヒーを喉に流し込んで表情を悟られないようにした。


読んでいる彼女の顔を見ようと頭を上げるも、どうしてか見てはいけないモノのように思えてならない。見てしまえば、俺の吐いている嘘がバレているのか否か分かってしまうからだ。



『ありがとう』



ゆっくりと、青信号になった時に右と左を確認するように彼女の方へ顔を向ける。細い指先で挟まれている手紙は、もう既に俺が書いたものではなく、まるで別物みたく存在していた。


この時間が終わるのを刻む腕時計の針。コーヒーに口はつけられず、手持ち無沙汰を見せまいと膝の上に手を乗せる。


心拍数がだんだんと右肩上がりに上がっていくのが分かった。中高生の淡い恋のように弾む心臓が、俺の息や思考を乱す。



『……あのさ』



リンの一挙一動に目を凝らしていた俺は、静寂を切り裂く彼女の声にすぐさま反応した。



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