フランボワーズの手紙

□第六章
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しかし結局、俺には手紙しか方法がなかった。



リンの料理を食べきったあの日からずっと他の方法を考えるも何も思い浮かばず、そして仕事中はパソコンのディスプレイに向かい合いながら頭の片隅で手紙の内容を考えたが、それすらも思いつかない。


ビル風によって揺れる前髪が鬱陶しく、手でくしゃくしゃに掻き分けながら自宅マンションのエントランスに入る。

そして三日ほど溜めてしまった郵便物を掻き出し、エレベーターに乗りながらそれをチェックしていく。



携帯会社、電気代の請求書、クレジットカードの決算……流すようにパッパと捲っていけば、ふと一枚の葉書に目が止まった。



差出人はリンの両親。二人は半年前に宝クジに当たったらしく、今は世界一周旅行を二人で楽しんでいるのだ。

こうしてたまに旅先で買った葉書でどこに行ったかなどの現状を教えてくれており、今回は名前も聞いたことのないような国からの葉書だった。



宛名には「沖田総悟・リン様」と記されていて、もしかしたら彼女はまだ離婚したことを話していないのかもしれない。それはきっと、折角の夫婦世界一周旅行に水を差してしまうからだろう。



彼女の両親は絵に描いたような夫婦だ。挨拶に家へと訪れた時は、その彼女の実家からは幸せな匂いが漂っていたのである。ふわふわして、毛布に包まれているような、そんな空気が。

そんな雰囲気が俺の肌をくすぐり、さらに彼らは一人娘を嫁に出すにも拘らず、俺を家族として温かく受け入れたことにもむず痒くなった。



その時の俺は、彼女を幸せにしなきゃいけないと思ったはずなのだ。それなのに、いつから忘れてしまったのだろうか。




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