フランボワーズの手紙

□第八章
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珍しく、休日なのに昼前に起きることが出来た。特に現代の経済状況や政治体制などに興味はなかったが、テレビ欄と四コマ漫画を見るのはなんとなく日課のようになっており、ゴム草履を引っ掛けて新聞を取りに行くためにエレベーターを降りる。


途中の階で乗り込んできた小学生くらいの子どもは、自分の腕でちょうど抱え込めるくらいのサッカーボールを手にし、一階に着いたのと同時にエレベーターから飛び出す。「元気だなァ」と心の中で感心していれば、郵便受けで隣に住んでいるおばさんと鉢合わせた。


この人には恐らく、俺が離婚していることは勘付かれているため、あまり関わりたくない。今だって俺へ何か聞きたそうにチラチラと煩い視線を送っている。

それを無視して軽い会釈で横を通り過ぎ、俺は郵便受けに入っている新聞を取りだしたが、それによって何かが地に落ちる。何かと思って拾い上げると、一枚の白い封筒だった。


思わずそれを凝視してしまう。だってこれは、俺がリンに渡していた手紙と同じ封筒だからだ。


俺は勢いよく郵便受けの前から走り出し、閉まりそうになっているエレベーターをこじ開けて乗り込む。中に乗っていたおばさんは驚いた顔をして俺を見ていたが、そんな視線いとも気にせずに封筒を穴が空くほど俺は見つめる。

宛名も宛先も、送り主の名前もない本当に真白な封筒。今すぐにでも開けたくなったが、ここでは我慢だとグッと堪えて家まで待つ。


しかし家に着いた瞬間、靴を脱ぎ捨ててリビングへと一直線に向かった。そして椅子に座り、開けばナニカが飛び出してきそうな封に手をかけて恐る恐る慎重に開く。

その時ゴクリと生唾の通る喉の音が、静かな部屋に俺の心臓の鼓動と共に響いた。




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