パナケイア
□第一章
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『――では、こちらが本日最後の商品になります』
世の中は表と裏に分かれている。
光の射す表と、深い闇の裏だ。
そんな闇の中でしか生きれない人も少なくないわけであり、彼らは決して街灯に群がる夜光虫のように光に向かって飛びはしない。自分の生きる場所を知っている、実に利口で浅ましい生き物だった。
『なんと、あの伝説は本物だったのです。数多の戦場で流れる血を食い止め、死にかけた者に精を吹き込む魔女。彼女は本当に実在しました!』
「それがこちらです」と先ほどよりもハリのある声を出した司会者は、後ろ手にあるカーテンを手で差しては指を鳴らす。その合図とともに漆黒のカーテンはゆっくりと上がっていき、大きな檻が姿を現した。
頑丈な作りで猫さえも通ることのできない細い隙間。その間から見えるのは、ひとつの蹲っている小さな塊。
『これがあのパナケイアと呼ばれる魔女です!』
司会者の上がる声とともに会場はざわつき、それに合わせてなのかガタガタと震えだす。自分の姿を隠すために先ほどよりもより縮こまろうと腕を抱え込んだ。
しかしそんな抵抗も虚しく、会場に居る烏色の男たちは舐め回すように魔女を観察していた。その視線はまるでナイフのように魔女へと突き刺さっていく。
『それでは、まずは百万円からスタートしましょうか』
ニタリと下品に舌舐めずりをする司会者。皆が背もたれから背中を外して前のめりになり、準備が整う。
司会者の開始の合図と共に黒づくめは持っている番号の書かれた札を一斉に上げ、各々魔女に価値をつけ始めた。
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