パナケイア

□第三章
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『やっほー』



部屋に入ってきた高杉に対し、ヒラヒラと軽快に手を振るう男。ぴょこんと跳ねるサーモンピンクのアホ毛が特徴のこの男は、高杉に「神威」と呼ばれている。

目の前に出されているご飯を升ごと掻き込んでおり、その姿を見た高杉は小さく息を吐いた。



『……何の用だ』



神威の目の前に腰を落とし、かいた胡座の腿に肘を乗せて頬杖をつく。神威に視線を送った高杉は、早く話せと言いたげに目を細めた。急かされた神威は口に詰めていた物を飲み込み、口元を袖で軽く拭う。



『別に用ってわけじゃないんだけど、シンスケが面白いものを手に入れたって小耳に挟んだから』



「で、どれ?」と神威は部屋を見回す。飾ってある壺を手にしては裏返し、挙げ句の果てには落として割ったりと、高杉は余計に面倒臭そうに眉をひそめた。



『ここには居ねェよ』

『ならどこに居るの?』

『さァな』

『はぐらかすなよ』



「俺とシンスケの仲でしょ?」と嗤う悪魔。齢18にして、神威は危険な香りを漂わせている。そんな彼の後ろにずっと付いていた「阿伏兎」と呼ばれている男は、神威に「早く帰ろうぜ」とこちらも面倒臭そうに髪を掻き分けた。



『高杉も団長に会わせる気がねェなら仕方ねーよ』



「ほら」と言って急かし、神威は小さく鼻から息を吐いてから立ち上がる。詰まらなさそうな顔を見せては襖の引き出に手をかけるも、ちょうどその時、浴場へと向かっている途中のユキとまた子と鉢合わせてしまった。




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