パナケイア

□第四章
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『よぉ。昨日はよく眠れたか?』



彼女がお手洗いに行くために廊下を歩いていれば、高杉晋助と遭遇してしまう。ユキの部屋があるこの階は昨日に比べて人の気配がほとんどなく、彼女から人という他人の存在が遮断されているようだ。


そして彼は、まるで夜中に何かがあったことを知っているかのようにユキを試している。だがそれは単なる思い過ごしかもしれないため、「はい」とただ一言彼に返事を返し、さらに言葉を続けた。



『……あの、一つ聞いても良いですか?』



彼女の言葉に彼は良いも悪いも言わず、「許可」の意味が込められた真っ直ぐな視線を向ける。



『貴方は私を、どうしたいのでしょうか……』



神威には漠然としているが、彼女は彼の目的を感じていたのだ。しかし高杉晋助の腹の中は全くと言って良いほど読めず、だからこそ明確にしておかないといけない気がしていた。


高杉は右目を伏せては少しだけ顎を引き、くくくと喉を震わせて笑う。その低い笑い声はユキの心拍数の上昇を引き起こした。そのため彼女はいつかこのまま死んでしまうのではないかと杞憂する。


そうしてゆっくりと目を開いた高杉は、今度は顎を突き出す。その姿はまるで自分が彼女よりも上の立場であることと、どこか見下しているような、そんな優位を誇示していた。



『お前は俺にどうされたい』



ユキは自分が高杉の掌で転がされていることに改めて気づく。高杉への忠誠心を試されているのか、それとも反逆心をくすぐられているのか。

高杉晋助という男に何かをされたいなんて考えたことも無かった彼女は、いつだって自分が何かをする側であったからだ。



『お前にその答えが出せたら、ここから出してやるよ』





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