パナケイア

□第七章
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『……たまには、広いところで太陽を見たいだろ』



そう言った高杉さんは私の腕を引く。湯浴み以外で部屋の外へ出るのは初めてで、私はこれからどこへ連れて行かれるのか、ワクワクと高揚した感情が湧いた。恐怖はない。高杉さんが傍にいるからだ。


そうして連れて来られたのは広い縁側だった。太陽の光が差し込み、ポカポカと暖かい。腰を下ろした高杉さんが自分の隣を軽く叩いたため、私はそこに座る。

上を見上げれば眩しくて思わず目を細めてしまう。目を閉じても感じる太陽の光。真っ白なそれは、私の中に潜む陰をも消し去ってくれるようだ。



『ありがとうございます、高杉さん』



私がお礼を言うも、彼は少々不服そうに眉をひそめる。どうしてそんな顔をするのか、何か自分が妙なことを言ったか考えるも、特におかしなことは言っていない。高杉さんは片膝を立てて頬杖をつき、小さな息を吐いた。



『あの部屋にお前を閉じ込めてるのは俺だ。
その俺が気まぐれにお前を部屋から出しただけで礼を言うのか』



「変なやつ」そう言いたげに、また彼は溜息を吐く。確かに高杉さんの命令で私はあの部屋に閉じ込められてはいるが、別にそれが嫌というわけではないのだ。

それに私を信じ、こうして部屋から出してくれた。そのことに感謝を抱くのはいけないことなのだろうか。



『……そんなことを考えていたなんて、高杉さんはお優しい人なんですね』

『俺が優しい?』

『はい。優しいです』



本当だと言うように彼に笑って見せれば、高杉さんはまた呆れを含んだ息を吐いた。バカだと思われたのかもしれない。しかし、それでも私が彼を優しいと思うことに変わりはないのだ。

二人並んで陽の当たる縁側に座って、流れていく時間に目を閉じる。こんなにも穏やかで心地の良いことはない。


これは高杉さんが私に与えてくれた、優しさなのだ。




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