フランボワーズの手紙

□第三章
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もしかしたら、こんな風にならないようにね、と反面教師みたく考えているのかもしれない。だが、彼女がそう思っていても、俺にとってはリンとの結婚は決して失敗だったわけではないのだ。


本当に失敗したのは、リンである。



『……綺麗ね』



独り言のようにポツリと零した言葉。何も返事ができずに押し黙った。そんな俺をチラリと一瞥し、また失望した表情を見せたリンは、拍手を送っていた手を一瞬だけ止める。

俺は一気に砂漠の中にいるくらいに喉が渇き、置いてあったグラスを勢いよく傾けた。



しかし中身の冷えた水によって頭は冷えると思ったが、むしろキンキンと木霊のように彼女の声が頭に響く。哀しそうな、寂しそうな……そんな寂寥の中には、きっと怒りだってこもっているだろう。


「お前も綺麗だったよ」と気の利いた台詞を簡単に言えるくらい自分がキザな野郎だったら良かったのかもしれない。だが、そんな歯の浮くようなことを言っても、鼻で笑われるのは目に見えている。




ただ、キャンドルサービスによって俺たちのテーブルに来た二人に対して、「お幸せに」と俺たちが送った言葉に嘘偽りはどこにもなかった。



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