Novel.1
□手を伸ばせば
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手を伸ばせば届きそうだと思った。
何度も何度も手を伸ばして。
掴みかけたと思えば
また相手は遠くへ行く。
そんな人生を歩んできた。
お父さん。松田くん。
どんどんみんな離れていく。
目が覚めればきっと、彼も。
「美和子さん」
いつもの優しい声で目が覚める。
まだ少し薄暗く肌寒い。
「美和子さんどうしたんですか」
眉間にシワを寄せて必死な顔をした高木が佐藤の顔をのぞき込む。
「おはよう、渉くん」
「おはようじゃなくてですね…」
高木の指が佐藤のほっぺたを拭う。
「えっ、私泣いてた?」
「どうしたんですか」
いつもの美和子さんらしくないですよ。
……。
いつもの私らしさってなんだろう。
凛々しさ、強さ?
「美和子さんだって一人の女性です。なので泣いたりするのは当たり前だし溜め込むことがあるなら僕に吐き出してほしいんです。力になれるかわかりませんが」
佐藤は弱々しい声で呟いた。
「あのね、私ね」
そう呟くと高木の胸にダイブする。
「私ね、今幸せ」
だけどね、怖いの。
とは流石に言えなかった。
「幸せならなんで泣いてるんですか」
自覚ないまま佐藤の涙は大量に溢れ出ていた。
「でも怖い。愛されてるのが怖い」
「大丈夫ですよ。僕は死にませんから」
高木は佐藤の頭をポンポンと撫でた。
時刻は早朝4:00。あと少し、眠ろう。