◇お話◇

□ノスタルジア
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隊長ともなると、自らがシガイと
向き合うことはそれほどなく、
部下に指示や注意があれば促す程度で、
魔法と武術に長けているリーダーに
信頼を置いている。

討伐依頼から無事に部下が
帰ってきたことを確認すると、

全員をミーティングルームに集合させた。


『今日もご苦労だったね。今日の討伐は
あなたたちにとっては物足りないくらい
だったと思うけど、明日はそうはいかないよ。
万全で挑んでね。じゃあ解散!

あ、これから私のトレーニングに
付き合ってくれる優しい人いない?
まだまだ体力の発散したいでしょ?』

名無しさんは部下をぐるっと見渡すが、
誰も手を挙げる気配はない。


『みんな軟弱者ね!』

『隊長〜勘弁してくれよ、とりあえず
俺はシャワー浴びてこれから
彼女に会いに行くってのに!』

『そうそう、発散なら今夜、
彼女のために取っておきたいよな』

ニヤニヤしながら話す男隊員を
後目に、

『名無しさん隊長、あの、申し訳
ないのですが私も約束が・・』

本当にごめんなさいっと
紅一点のかわいらしい彼女にまで
頭を下げられると、冗談だから
気にしないで、と彼女の肩を
叩くしか術はない。

『はぁ・・・・みんな
青春してるのねぇ』


『だから毎回言ってるじゃないですか、
早く彼氏でも作って俺達を
安心させてくれって。』


『じゃあ聞くけど、私は
彼女としてどう思う?』


『自分より強い女は例外だな。』


『俺も。自分が守ってやるって使命感が
一瞬にして崩れ落ちるのだけは勘弁!』


『ちょっと!隊長を目の前にして
それは失礼よ!』


『・・・あんたたちって本当、
正直だわ。』


名無しさんは苦笑いをしつつ、
隊員たちに「デート楽しんできて」と
背中を押し、部屋から出そうとした。



『・・・隊長』


リーダーが部屋を出る際、くるりと
振り返り真顔で改めて名無しさんに
声をかけた。

『ん?』



『俺達は、上司としての隊長を
尊敬してることには違いないんだぜ。
これからもずっと名無しさん隊長に
ついていくって決めてる連中たちだ。
その部隊のリーダーとして、俺は
自分の本来の力を振り絞って
尽くしていくって決めてんだ。
だから、任せてくれ。』

身長2メートル近くあるだろうか。
がたいの良いリーダーは
真剣に胸の内を語った。


『へ〜あんたってかなり男前で
かっこいいのね』


『ははっ・・今さらかよ』


ありがとう、どんな愛の言葉よりも
嬉しいよ、と固くて広い彼の背中を
バシッと叩いた。

『それはそうと、名無しさん隊長には
やっぱりそれ以上の強い男が
お似合いだと思うんだけどな』



『・・例えば?』


『ドラットー将軍とかコル将軍とか。』


名無しさんは一瞬考えたが、
あほらしくて何言ってるの、と鼻で笑った。

『私、別にオジサン好きでもないし
ああいう強い人こそ、触ったら
折れちゃうくらいのか弱い女性が
タイプなんじゃないの?』

雰囲気もこう、わたあめみたいに
ふんわりした・・と付け加えたが、
リーダーは豪快に笑いながら、

『わかってねぇな名無しさん隊長は。
おっとデートに遅刻しちまう!じゃ、
お先に失礼しますっと!!!』
と駆け足で部屋を出て行った。


取り残された名無しさんの脳内は
暫くのあいだドラットーとコルの二人の
しかめっつらを思い描いていたが、
「ないない、ないわ」と首を横に振った。



***




「ないない、と言っていた
名無しさん隊長がこのザマか・・」


アルコールで気持ちよくなった名無しさんは
コルの膝の上に頭を置き、上向きになって
コルの微笑を見上げていた。


「・・あの時は本当に
そう思ってたのよね」

コルは優しく名無しさんの髪を撫でていて、
それか眠気を誘うほど気持ちが良く
アルコールも十分に摂取したためか
名無しさんの瞼は自然と
閉じそうになっていた。

「もう昔話は終わったのか。」


「まだまだ・・。」

眼を閉じ、アルコールでくらくら
している頭をなんとか奮い立たせ、
過去の記憶を呼び出していた。

「コル、そのウイスキーちょうだい」

コルの持っていたグラスに、わずかに
残っていたそれを指さした。


「ああ」


「・・飲ませてくれる?」


「・・・・・・・」



名無しさんの大胆な発言は
いつもと変わらないが、
それを素直に無言で受け入れようと
しているコルも、アルコールに
ほどよく酔っていることを
物語っている。

彼は残りのウイスキーを口に含むと、
膝で仰向けに寝ている名無しさんの
顔に近づき、唇を合わせると
名無しさんの口内へ少しずつ注いでいった。


「高級のウイスキーが
さらに美味しい!ご馳走様。」

名無しさんは体を起こしコルの隣に
座りなおすと、再び昔話を口にし始めた。
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