◇お話◇

□あの時から
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店を出てクロウとアラネアと別れ
家に着いたときにはもう22時を過ぎていた。

家の窓からは満月が煌々と輝きを見せていた。
まさに月光で、部屋の電気をすべて消しても
問題ないくらいだ。自然の神秘は好きな
相手を思い出させる効果があると
前から感じていた。
夕日も、満月も、それに伴う月光も、
すべては『愛する相手と見たい』のだ。

将軍、今何をしているんだろう。
そう思いながら満月を見るのは何回目だろう。

考えるのはもうこれでおしまいにしようか。

アルコールの力を借りて、私はスマホを
手に取った。

将軍に電話をするのはもしかしたら
仕事以外では初めてかもしれない。

急に電話したら驚くだろう。
でも・・・

考えるより体は正直で、すでにもう
将軍に電話をかけていた。

不思議と緊張はなかったのは
やはりワインを大量に摂取したからか。



『・・名無しさんか、どうした』

「こんばんは将軍。夜分遅くすみません」

『いや、構わないがなにかあったか』

「特になにかあったわけでもないの」

『・・・そうか・・。』

彼の低い声が電話越しから聞こえるだけで
私の心臓は踊っている。
緊張よりも嬉しさのほうが勝っているのに、
なぜか手が震えていた。

「今日は友達と飲み会で・・」

『・・ああ。そう言っていたな。』

「今帰宅したんだけど、あまりにも月が
綺麗で思わず将軍に電話してしまったわ。」

電話から、小さく笑う彼が聞こえた。

『お前は夕日や月が好きだな』

「将軍、今何してました?」

『奇遇だが、俺も月を見ていた』

「そうなの。・・綺麗ね」

『・・・ああ』

用がないなら切るぞと言わないところに
将軍の優しさが感じられる。

しばらく無言になる。だけど心地よい。
将軍も月を見ている。私と同じ月を・・・

この沈黙を破ったのは意外なことに彼だった。

『名無しさん』

「はい?」

『・・・お前に会いたい』

「・・明日は休みなので、明後日なら
会えるわ。」

『・・ふっ・・そうだな』

そうじゃない、そうじゃない、こんな
可愛げないことを言いたいわけじゃない。
今、驚くことを彼は確かに言った。
会いたいとはっきりと!

あの時からずっと温めていた想いを、
言うなら今だ。
そう仕向けてくれたのは紛れもない
コル自身なのだから・・・

「しょうぐ・・コル。私も会いたい。
ずっと、ずっと好きだった・・・」


さらっと言えたと自負してる。
5年も片思いしてたとは思えないくらい。


でも長年の思いを募らせて、相手に告白するのはたった3秒で事足りる。
余計なことは言わなくていい。

私の想いが彼に伝わるには十分な時間だった。

『・・俺もだ。ずっとお前を思っていた』

うぬぼれていたわけではないけれど、
なぜか驚かない自分がいた。
安堵で、体の力が抜けた。

いつから、片思いではなくなっていたのだろう。
今度はしっかり、彼と向き合って聞いてみよう。
もう何も隠すことはない。
私も、コルも、お互いを必要としているから。



今日の満月はいつにも増して輝きを放っていた。



end
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