◇お話◇

□彼の体温
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「魔法と一言で言っても、白魔法、
黒魔法、青魔法、召喚魔法、時空魔法、
暗黒魔法などその数は10以上もある。
敵の特性をあらかじめ把握して、
それに合った魔法を使うのがまあ
当たり前だけど、
強力な程詠唱時間もかかる。

例えば素早い敵には補助系魔法のスロウが
有効だけど、割と時間がかかるのが難点。
詠唱をしながら武器攻撃も手を抜かない事ね。
難しいことだけどこれはもう
慣れしかないから。

明日はダスカ地方のクアールで
実践するから、性質ををしっかり
調べておくこと、以上!」

一気に教室がざわめく中、私は急いで
付け足した。

「あー・・みんな、今日は初めての
魔法講義で、私も至らない点が多々
あっただろうけど、改善すべき点とか
なにか相談があったら遠慮なく言ってね」

若くてエネルギッシュが若者たちを
見ているとこちらも笑顔になる。

それほど魔法に詳しくないアタッカーの
隊員向けに、講義をしてほしいと
レギス陛下のご命令で、今日は
第一回目の講義を開講した。

部屋に忘れ物がないか一通りチェックし、
自分の荷物を持って廊下に出ると
モニカが立っていた。

「お疲れ様名無しさん。どうだった?
最初の講義は。」

コルの部下であるモニカは私の肩を
ポンポンと叩いた。

「あはは。こんなので本当に良いのか
私自身疑問だわ」

「術者から直々に講義が聞けることは
良いことよ。
私も今日は久々にクレイン地方で戦闘
だったけど、やっぱり魔法は苦手だもの」

「どうりで今日はスーツじゃなくて
警護隊戦闘服だったの。お互いお疲れね。
今から一緒にお昼どう?少し早いけど」

時計を見ると11時半過ぎ。

「そうしましょうか。この時間なら
王都特製ランチプレートに確実に
ありつけるわ!」

乗り気のモニカは、着替えてくる、と
足早にロッカーに向かった。

食堂は王都の最上階にあり、専属シェフが
待機している。最高の料理を、最上階から
見える絶景のインソムニアを眺めながら
味わえるこの場所は、疲れ果てた隊員には
必要不可欠の場所にもなっていた。

流石にお昼前の食堂は人もまばらだった。
モニカは早速ランチプレートを二つ頼むと

「それで・・名無しさん。」と改めて
私の目を見た。

「将軍のこと、教えてもらいましょうか」
ふふっと目を細めて、なにやら楽しそうに
私の返事を待っていた。

「この前、5年間の想いを伝えました。
そしたら彼も同じ気持ちでいてくれて、
めでたしめでたしでした、以上。」

「・・・それだけ?」

「それだけ。ええと今日の特製プレートは
チキンとアボカドのホットサンドに
かぼちゃサラダ、ポテトの冷製スープに
ガトーショコラ、最高」

私はテーブルクロスを膝にかけ、
出来立てのホットサンドにかぶりついた。

「おめでとうと言うべきなのか、
やっと鞘に収まってくれたと言うのか・・」
モニカは苦笑いをしながらフォークを
トマトに刺すと、なにやらまだ
言いたそうな雰囲気だ。

「私よりモニカの方が将軍と長く 一緒に
行動してるでしょ?なにか今まで
感じるものはなかったの?」

「それなのよ。まあ将軍もああいうお方
だから、自分から恋愛の話を持ち出すなんて
ゼロに等しいでしょう?でもいつだったか、
将軍がなにかを見ている方向には、
必ず名無しさんの姿があったのよね。」

「へぇぇ嬉しい情報をありがとう」

私は胸から湧き上がる温かい感情を抑え、
モニカに礼を言った。

「なんとなく女の勘てあるじゃない。鉄のような将軍でも、
これは誰か好きな
女性がいる、ピンと来たから
休み時間にそれとなく聞いてみたの」

「将軍に?なんて」

「将軍は、誰か特別な女性
はいるのですか?てね」

「そしたら?」

モニカが少し声のトーンを落として
こう言った。

『仕事に明け暮れて、気が付いたら
この年だ。・・・いないと言ったら
嘘にはなるがな。』

「ははっそれ将軍のマネ?」

そうそう、と首を縦に振り、食後の
コーヒーに口をつけたモニカは、更に
続けた。

「私も上司に向かってこんな立ち入った
話しなんてできないから、その時は
そうですか、で終わりにしたけれど、
やっぱりあれは名無しさんの事だったのね」

「そうだとした嬉しいけど、
それっていつの話?」

「もう4〜5年前くらいかしら。
それこそ名無しさんが将軍を
好きになったときくらいじゃない」

再び静かにコーヒーカップに口をつける
彼女を見ながら、思った。

私と将軍は偶然にも同じ時期に
お互いに惹かれあっていて、
それでも長年、相手に思いを打ち明ける
こともなかった。

「ねえモニカ、もし私が告白しなかったら
一生平行線のままだったかも・・」

それって怖いよねと言うと
モニカは
「私からすればあり得ないことね。
私は好きになったらすぐ実行に
移すタイプだから」
と笑って答えた。

彼女の意外な一面がここで見れた気がした。
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