◇お話◇

□遠い昔の記憶
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見上げるほどの位置にある王座。
その高さは王と臣下の身分の差を
明確に表しているのだそうだ。
首位の座と引き換えに、重圧な責任は
どれほどのものか計り知れない。


ピンと張りつめた空気が漂うこの王室、
だが決して居心地が 悪く感じないのは、
陛下のその優しいお人柄と
眼差しのおかげだろう。

隊員の恋愛事情をわざわざ
陛下に報告する義務はないが、
コルと名無しさんの立場を考えると
一言伝えるのが筋との考えで、
昼休みに二人揃って
陛下とクレイラスのもとにやってきた。

「そうか、それはめでたいことだ。
私も心から祝福するよ」

優しい陛下のお言葉に名無しさんは
深々と頭を下げ礼を述べた。

「ありがとうございます。
昔、自暴自棄になっていた私を
拾って救って頂きました。
ここまで来られたのも陛下のおかげです、
感謝しています。」

「名無しさんは私やクレイラスにとって
娘のようなものだからな。
交際相手は一番気になるところだが、
それがコルだと聞いて安堵した。
彼のこと、くれぐれもよろしく頼む」

「・・・はい」

「俺もこれで一安心だ」と
クレイラスは付け足した。
公務中は自身のことを「私」と
呼ぶクレイラスが「俺」に
変えたことで、ここからは
プライベートかつオフレコで
とのことだろうと察した。

「それにしても長かったなコル。
この時を俺もレギスも首を長くして
待っていた。なぁレギス」

クレイラスが言うと、レギスも
目を細めてうなずいた。
コルをちらりと見ると
少し眉間にしわを寄せてはいるが
無言のままである。

「あの・・お二方は知っていらした
ということですか、将軍の想いを」

名無しさんは思いがけないクレイラスの
言葉に驚きを隠せなかった。
まさかコルが二人に恋愛の相談を?
いやありえない。


「こいつは知っての通り、自分から
好きな女性のことを話すタイプではないが、
いつも一緒にいる俺達が気が付かない
わけがない。

最も、人を好きになる程の
心の余裕が出来るまでは、
武術に明け暮れる毎日だったから
コルがそんな感情を
持ち始めたのがなんとも嬉しくてな。
俺もレギスもあのコルが!
なんて言って舞い上がったものだ。

あの時のコルの目。その先に
いるのはいつも・・・」

と、クレイラスは名無しさんに
目を向けた。

「俺達の目はごまかせんよ。」

あごひげをなぞりながら
クレイラスは懐かしむように言うと、
コルは咳払いをし

「クレイラス、余計なことを言うな」
とだけ発した。

「名無しさんは、コルの視線を
感じたことはないか?」

レギスはやさしく問う。

「生憎、私もそういうことには
疎く、感じることは出来ません
でした」

正直に言うと、陛下は
そうだろうな、と笑った。

「5年も前になるかな、魔法部隊が
結成され、名無しさんがそれを
取りまとめる程になるまで
相当の苦労があったであろう。
周りのことなど見えなくて当然。
そんな時に声はかけられない、
コルの気遣いが告白を遅く
したのだろう?」

「・・・・・」

コルは何も言わなかったが、
名無しさんは驚いた。
なぜ5年もの間なにも
言ってくれなかったのか、
コルのあの堅物な性格上だろうと
納得しつつも少の不満を感じてはいた。
・・が、全ては名無しさんを思っての
ことだったのだ。

「実は、私も五年前から将軍を
思い続けていました・・」

もう全て白状するしかない。
私のまさかの告白に、レギスと
クレイラスは顔を見合せ、
豪快に笑った。

「そうか、そうだったのか!
お互い五年のあいだ知らずに
好き合っていたとは驚きだな!」

二人の間に歓喜の声が上がる。

「先ほどおっしゃられていたように
昔の私は今ほど余裕もなく、
ただ自分と部隊の事だけしか
考えられないはずなのに、
一度だけ行動を共にした将軍に
完全に心奪われました・・・」

コルは恥ずかしいのか、手を額に当て
なにやら落ち着かない様子が伺えた。
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