◇お話◇

□最高の感情
1ページ/6ページ




薄暗い空。一日が終わろうと
しているこの時こそ名無しさんの
一日が始まる。
今日は夜勤のため今こそ出勤だ。

車にエンジンをかけると
何か違和感を感じた。
このごろ忙しすぎて洗車は愚か、
整備点検もままならなかった。
後日シドニーに見てもらい、
今日は久々に電車で行こうと
駅まで歩いた。

警護隊の戦闘服を着て歩くことは
このインソムニアでは珍しいことではない。

ただ大魔法術者は目印として
制服に赤いクリスタルが施されている。
もちろんクロウにもそれがあり、
名無しさんの胸にもそれが光る。
キラキラと胸を光らせマントをなびかせ
多少早歩きで道をかき分ければ、
それなりに目立つのか、
よく振り返えられるのはもう慣れている。

Brrrrrrrrr!!!!


身の程知らずが車のクラクションを鳴らし
誘いの言葉をかけてくることも
クロウと名無しさんにとっては
「またか」で済むような事態である。

クラクションの音が
する方をチラリと見て、
嫌味の一つでも言ってやろうか。
そう思っていた瞬間、車の窓が開き
意外な人物が顔をのぞかせた。

「名無しさん、車はどうした」


「ドラットー将軍。」

今日は車の調子が良くなくて、と
言うとドラットーは「乗れ。」と誘った。

「さすが将軍、良い車にお乗りですね」

「まあな。将軍と名乗る以上、
威厳を保つことも時には必要だ。
ポンコツには乗れんだろ。
コル将軍もそれなりのを乗り回して
いるはずだが。」

「あぁ確かにそうですね」

「・・あいつの車を知っているのか」

コルと付き合い始めたこと、
別に隠すことではないが、
わざわざ言うことでもない。
名無しさんは適当に「よく駐車場で
お見掛けします」とだけ伝えた。


「今日の合同訓練だがお前はどう思う。」

「良い企画だと思いますよ。
魔法重視の我々と武器重視の
王の剣が交えたら、お互いの
今後の課題が見えてきますから。」

「だろうな。魔法は陛下あって
こその力だが、まだまだ使いなれない
ものが多くて宝の持ち腐れだ。」

「反対にうちは魔法には秀でて
いますが武器攻撃の強化が必要です。
今日は王の剣の技術を盗むよう、
隊員によく言い聞かせるつもりです。

でもそちらにはクロウが
いるじゃないですか。
彼女こそ王の剣の魔法強化として
一番頼れる存在では?」

ふむ、本来ならな。と言うと
ドラットーは優しくブレーキを踏む。
おかげで名無しさんの体も前に
飛び出すことなく定位置で守られた。

「あいつらは良くも悪くもクロウを
妹のように扱っている。
あいつの魔法講義とやらを皆真面目に
聞くと思うか。」

「・・確かに。」

笑うドラットーの顔は、よく見なくても
深くて細かい傷が刻まれているのが
よくわかるが、その姿に似合わず
とても優しく心地よい運転をする。
彼の髪の毛が寝癖でぴょんと
はねているのを見ると、実は
穏やかでお茶目な所があるのかも、
と少し興味が湧いた。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ