◇お話◇

□その瞳、海の色
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降り注ぐ太陽の光
青と白の中間色が目に優しい巨大な海
サクサクと心地よい音が鳴る白い砂浜

ここはガーディナ渡船場・・・



「・・晴れて良かったね」

「・・ああ」


二人は白い砂浜に
設置されている椅子に腰をかけ、
どこまでも続く地平線を眺めている。

耳を澄ますと波の音、カモメの鳴き声、
魚がジャンプする音が絶え間なく
聞こえている。
二人きりのこの空間に
ピッタリなBGMだ。

こういう時の服装は、風になびく
ワンピースが好ましいのだろうか。
しかし名無しさんはそういうもの
が苦手だった。

デニムと白いTシャツ、
それにハイブランドのバッグを
肩にかけ、足元はスニーカー。
デートの時くらいヒールの高い
靴の方が良かったのかもしれないが、
砂浜を歩くことを考えたらやはり
前者が正解のようだ。


昨夜は名無しさんのうちに
泊まったコルは、以前彼女の家に
置いていた服を、名無しさんが
きちんと洗濯、アイロンをかけて
いつでも私服が着られるように
準備していたおかげで
着るものには困らなかった。

彼も同様、シンプルなデニムに
Tシャツ、ジャケットだが、
洗濯をする際タグを見た
名無しさんはその高級ブランドに
思わず手洗いしてしまったという。

名無しさんは頬杖をつき、
海からコルの姿へと目線を変えた。
いつも着ている戦闘服とは
対称的な白いTシャツが、
名無しさんにはとてもまぶしく
映っている。


「本当に素敵ね」

「・・・・なんだ、突然」
少し照れながらコルは口角を上げた。

「あら、思わず本音が出ちゃった。
ねぇ、おなかすかない?」

「もう昼だな。行くか」

「賛成」


二人はレストランへと続く
長い橋を、景色を楽しみながら
ゆっくり進んだ。

立ち止まっては風を感じ、
また立ち止まっては
跳ねる魚に歓喜をあげる。

意外にも、手を絡ませたのは
彼の方からだった。
これには名無しさんも面食らった。

「手、つないで大丈夫?」

「・・・・どういう意味だ」

「コルの立場上、というか性格上、
もし他の誰かに見られたら
気まずいかなと思って。」

するとコルは力強く手を握った。

「問題ない」

「・・・嬉しい。でも意外」

「・・意外とはなんだ」

二人は笑いながら
またゆっくりとレストランへの道を
歩き始めた。




「ねぇ・・」

名無しさんはその場に立ち止まった。


「どうした」




「今、楽しんでる?心安らいでる?」


二人は少しの間お互いを見つめ合った。
潮風が二人の頬を丁度良くくすぐる。


「・・お前はどうなんだ」

「質問返しはダーメ。正直に答えてよ」


握られた手が離れたかと思った瞬間、
コルはその手を名無しさんの
肩に置き、抱き寄せた。


「お前と一緒ならばどこに行こうと
楽しいし、心安らぐ。」

「・・・・それなら安心した。
コルには仕事のことを暫く忘れて、
心が安らぐ時間を僅かでも
作って欲しいってずっと思ってたから。」


「・・そうなのか。」

「随分長いこと陛下に
お仕えしてきて、身も心も
そろそろ休ませてくれーって叫んでない?」

眩しく光る名無しさんの笑顔に
コルは今まで感じたことのない
胸の高鳴りに身を委ねた。

肩を抱く力も自然と強くなる。

「海にはリラクゼーション効果的が
あるらしくてね、
ストレス解消になるみたい。
だから今回この場所を選んだの。」


「・・お前は優しいな」と

言うのが彼にとっては精一杯だった。



「ここに来たかった理由、
もう1つあるのよね。」


「・・・・・・」

コルは静かに耳を傾けた。



「この海の色、あなたの瞳と同じ色だから」


「この色大好きなの」と名無しさんは
少女のような屈託ない笑顔を見せると、
コルの胸はドクン、と大きく波打った。
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