◇お話◇

□懐かしき雪景色
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静かな夜。絶え間なく降り続く白い結晶。
少しずつ王都が雪化粧されてゆく。

ここ、インソムニアに5年ぶりの雪が降った


黒を基調としている制服が
対称的なこの白銀の世界で
よりいっそう目立つようになる。


特別、今日はシガイ退治もなく
今夜はただただ、書類の整理と
称して隊員たちは比較的自由に過ごしていた。

私も部下たちの報告書に
目を通し終わると、もうすぐ休憩時間だと
時計で確認し、裏庭に足を運んでみた。

誰も足を踏み入れていないのが良くわかる。
一面に広がる白い絨毯に、
足跡などつけられるわけがない。




確か・・あの日も雪が降っていた。



『大魔法術部隊発足に基づき、
名無しさんを隊長に任命する。』

陛下の威厳あるお言葉は
私をこの場所で生かして
いただける救いの言葉でもあった。

昔からある王の剣とは違い、
警護隊の中から更に魔法に
秀でているものだけが選ばれたこの部隊。
本来なら武術同様、魔法も鍛練を
重ねて自分のスキルアップを図るはずが、
私は生まれながらにして
この力が備わっていた。

私は目の前に広がる雪景色の中心に、
大きいファイアを放った。
まるで焚き火を炊いているかのように
暗闇中で炎がゆらゆらと光り踊っている。

「この力は一体どこから・・」




自分の手を暫く見つめていると
背後から声がした。

「お手製の巨大ロウソクってところか。」

「・・ニックス」

彼が私の隣に立つと、炎を見つめた。

「雪の日はシガイも出ないとは
案外、話しのわかるやつかもな。」

「・・はは、確かに。
こんな暇な夜ってそうないからね。
ニックスは自主トレ以外、なにか
することはないの?」

「まあドラットーには次回の訓練の
計画書をよく読んでおけとは
言われてるし、あと一時間したら警備だ。」

そう言うと、ニックスは
ポケットからエボニーを
2つ取り出し1つを私にくれた。

「ありがとう・・これ、まだ温かい。
今買ってきたの?」

「ああ。名無しさん隊長が
ここにくるのが見えたもんでね。」

私は笑って、今は隊長ってやめてよ、
と言いさらに続けた。

「こういうさりげなさに女性は
弱いって知っててやってるの?」

「まさか。俺の本質。」

「・・良く言うよ」

ニックスは大きく笑うと
空から舞い降りる雪を見上げた。

「・・名無しさんの愛しの
将軍サンは夜勤じゃないのか。」

「そっ。コルはもう帰ったと思うよ」

「残念だったな。こんな日こそ
ここで二人で見たかっただろ。
俺じゃ力不足だな。」


「そんなことないよ。
でもまぁ会いたいよね、やっぱり。
今、何をしているんだろう。
雪を見ながら読書かな・・」

「そりゃあ、ベランダで
雪だるま作ってるだろう。
しかもまあまあなデカさのやつを。」

「雪を見ながらお酒かなぁ・・」

「雪だるまの手は枝二本だな。」

「・・・もしかして家の近くを
少しお散歩とか・・うーん、
絵になるわ」


「雪だるまのかなめは人参だな。
最後に鼻に刺して・・・・・・」

「うるさいなもう!」

私はニックスの肩を
叩きながら二人で笑い合った。

「そんなに作りたいなら、
ニックス特製雪だるまを作りなさい、
まだ警備まで時間あるでしょ?」

私は庭の中央で燃え続けている
炎を消し去ると、ほら!と
彼の背中を強く押し、
雪の中に放り込んだ。

ニックスはうわっ!と声を上げつつ
誰も侵入していないこの雪の毛布に
思いきり手を伸ばして寝ころんだ。


「気分はどう?ヒーロー」


「・・・・最高だな」

ニックスは起き上がり、
ゆっくり雪の上を踏みしめている。
サクサクと耳に良い音が彼の足元から
鳴り響く。

その姿をぼんやり眺めながら、
私は昔を思い出していた。
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