◇お話◇

□ノスタルジア
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コルが持ってきてくれた
高級ワインを片手に、私たちは
いつも通りの定位置に座り、
いつも通り部屋の電気を消して
キャンドルの灯だけでお互いの
顔を確認する。

「ワインを飲みながら昔話をするって
約束、覚えていてくれたのね」

「ああ。たまには昔に戻るもの
良いだろう・・」

「どこから話す?」

「そうだな・・5年前。
お前が新部隊の要として人生の
門出を迎えた日・・」

「・・入隊して10年、そのうち5年は
極秘訓練、それから魔法術部隊が
発足して同時に隊長に任命されて
更に5年・・ハイスピードの人生だわ」

私のこの力を気味悪がられて、
孤児院を抜け出して転々と
さまよっていたころ、どこで嗅ぎつけたのか
魔法能力を見いだされ
気が付いたら陛下とクレイラス様の
目の前に、こんな孤児院出身の
場違いな私が立っていた。

「5年後に発足する予定の
新部隊の為ぜひとも」との声に
私はなんて答えたのか今となっては
記憶にない。

息もつかぬ間に猛特訓の日々が
続いたということは、私はそれなりの
返答をしたはずだ。

「お前はいずれこの隊をまとめる
キーパーソンとなる。その為の
部下指導の訓練もかねて・・・」と、
入隊して2年後には後輩が入り
部下との接し方、育て方を学ばせられた。

5年間、国民にこの部隊が
公になる直前まで、戦闘はもちろん、
身のこなしや礼儀作法を叩きこまれた。
しかし戦闘以外のことであれば、
私は対して困らなかった。

そこそこ裕福な家で育ったため
最低限の振る舞いは当たり前であったからだ。
そのプライド高き両親だからこそ、
私の力を認められず、化け物扱いを
せざる得なかったのは大人にになった
今なら、ほんの少しわかる気がする。
否、わかりたくもないがあの両親ならば、
と前置きをしておく。

今まで王都でのらりくらりしていた私が、
この国と陛下を守るための
いわば捨て駒になることを、
不思議に思う暇も忌避感もなく、
ただ毎日が嵐のように過ぎて行った。

「訓練生の時って、籍は一応
警護隊にあったのに貴方にはあまり
会わなかったね。」

「・・そうだったか。」
コルは昔を懐かしむように
目を細めると、赤ワインを口に含んだ。

「不死将軍ともなると
そう簡単にはお会い出来ない
高貴な存在なのよね・・
私を良く目にかけてくれたのは
モニカやダスティンだったもの」

「ダスティンは優秀な部下だ。
モニカも入隊して3年目だったか、
お前の世話役は後輩の指導として
大いに役立ったろう。同姓で歳も近い、
俺よりも適役だったろうな。」

「まぁ、否定はしないよ。
コルに対しての第一印象は
つかみどころのない人だったかな」

私はあっけらかんと伝えた。
それは今の関係があるからこそ
遠慮なく言えることだ。

「俺のお前に対する印象は
・・気が強いだな」

「ん、間違ってはないよね。」

でもこうして今、当たり前のように
隣にいて、一緒に酒を交わす仲になろうとは
当時は微塵も思っていなかった、お互いに・・

「不思議・・・」

私は彼の肩に寄り掛かった。
すると何も言わず、コルは私の頭に
優しく手を置いた。

「私たちが良く接点を持つように
なったのは私が隊長になってからね。
ドラマみたいにお互い一目ぼれで、
恋に落ちて・・だったらロマンチック
だったけど、現実はそうもいかなかったね」

「ああ・・。なにかと衝突していたな」



私たちは顔を見合わせて気まずそうに
見つめ合うと、あの頃は・・と
再び話し始めた。
グラスのワインが空き、お互い2杯目を
注いだ時だった。
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