◇お話◇

□香り高き・・・
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『ねえ、私のこと好き?』



『ああ、当たり前だろう』



『どれくらい好き?』


『どれくらいなんて単位で表せる
ものじゃない。伝えきれないくらい
お前を愛している』



『嬉しい・・・・ねえ、キスして』








「うーん・・・・鳥肌たってきたわ」

名無しさんは、メイクをしながら
BGM変わりに録画しておいた
恋愛ドラマを流していたが、
あまりにも滑稽な台詞まわしに
嫌気がさしてすぐさまニュースに
変えた。

今日は休みを返上し、
午後から魔法講義を開講する。
今回は王の剣の一部と警護隊の
夜勤組で構成された、50人弱が
聴講するとクレイラスから聞いていた。



講義の時間がこうして取れる
ということはシガイ退治がそれほど
忙しくなく、外に出る者も
増員しなくてよいことを
示してはいるが、やはり陛下と
その周りを取り囲む高官たちは
毎日目まぐるしく働いている。

年間1000以上の署名、押印を行い、
儀式の出席、国賓の晩餐会、
公式訪問、慈善活動、自然保護・・・

それらの公務を行う際は勿論警備も
厳重になり、警護隊と王の剣、
大魔法術部隊の特別編成を行い、
コルも多忙を極めることになる。

最近、城内でも全く会うこともなく、
電話もあまりしていない。

ドラマのように「私のこと好き?」
なんて聞いたら、コルはなんて
答えるのだろう。

そんなことを考えながら、名無しさんは
久々に黒のパンツスーツに着替えた。
ジャケットの下には白いキャミソール、
胸元には初給料で買った小さい
ダイヤモンドのネックレスに耳元は
お揃いのピアス。
いつもは一つに結んでいる髪を
今日はおろし、胸がふんわりと
カールで隠れた。


今日は講義のみのため、戦闘服で
なくても良い。久々のスーツは
なかなか良いものだった。

「・・・うん、悪くない」

鏡に映る自分を自画自賛したあと、
愛車に乗った。




城に着き、会議室をちらっと
覗いてみるとニックスやリベルトが
前列に陣取っていた。

時間ピッタリになると、名無しさんは
ドアを開き、声を張り上げた。

「みんな、席に着いて!」

名無しさんの姿を見るなり、
男性隊員から歓喜の声が上がった。


「おいおい、今日はどうしたって
いうんだよ!」

リベルトが誰よりも先に
身を乗り出した。

「・・・なに、女性のスーツ姿って
そんなに良いの?」

名無しさんは部屋を見渡すと
皆口々に「良い!」を連発してくれる。
更にニックスは小声で隣のリベルトに
「なんていうか、胸元やヒップラインが
そそられるんだよな」
とニヤつきながらささやいて
いるのを名無しさんは聞き逃さなかった。

「ニックス、黒魔法の特製と
種類をすべて答えなさい」


「え?あ?・・なんだよ・・・」

ニックスは頭をかきつつ
名無しさんに子猫のような瞳で
許しを乞うた。


「今日は黒魔法をキチンとお勉強するわよ、
私の胸元やヒップラインで頭がいっぱいに
ならないように!始めます!!」

会議室は笑い声に包まれた。




***



約90分の講義が終わるころ、
日頃の疲れが出てきたらしく
名無しさんの体もぐったりしていた。
喉も少しいがらっぽい。こんこん、と
渇いた咳をしながら、帰って早く寝ようと
急いで帰る支度を整えた。

誰もいない部屋を確認すると電気を消し、
クレイラスに報告をしに行くときだった。


「名無しさん」

後ろから聞き覚えのある声がし、
名無しさんは自然に背筋をただした。

「陛下、クレイラス様。」


「講義は今終わったのか?」

「はい。これから報告書を書いて
終わり次第お届けにあがります。」

「いや、今日はもう帰れ。
最近なにかと疲れているだろう。
今月末に行われる国防会議で、
また更に激務になることは間違いない、
今のうちに休んでおくと良い。
いいか?レギス」

「ああ、勿論だ。それにしても
今日のその姿はなかなか新鮮で
良いものだな。」

「ありがとうございます陛下。」


「コルには今日会ったのかな?」

優しく微笑む陛下はに申し訳なく、
名無しさんは首を横に振った。

「いえ、最近なかなか会えておりません」

ふむ・・と腕を組むクレイラスは
なにやら考えていた。

「今ちょうど、執務室で
ドラットーと警備の特別編成を
決めているところだ。
お前の部隊も数人含まれるだろうし、
近々お前も二人から呼ばれるだろう。
今から行ってみると良い。なあ、レギス。」

クレイラスはニヤリと笑い陛下を見ると、
彼も優しい瞳がさらに細くなりうなずいた。


クレイラスのその言葉に、彼が言わんと
していることがすぐにわかった。
コルにスーツ姿を見せてこい、という
陛下とクレイラスの計らいに
名無しさんは嬉しくなり、
深々と頭を下げた。

執務室に向かう途中、モニカが
名無しさんを見つけて
「今呼びに行こうと思ってたの」と
走り寄ってきた。


「講義が終わってすぐに悪いけど、
将軍たちが今度の国防会議の警備
編成してるの。だから名無しさんも
今すぐ向かってちょうだい。」


「今、クレイラス様から聞いたよ。
今から言ってくる。」


よろしくね、とモニカは言うと、
すぐさま「それにしても」
と話題を変えた。

「やっぱりスーツ姿っていいものよね。
こう、色気が出るわ。」

同性のモニカにまで指摘され、
名無しさんはもうまんざらでも
ない感覚でいた。

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、
やっぱり私には王都の
制服が着心地がいいかな。」

ジャケットは腕が上がりづらいし・・と
片腕を挙げると、名無しさんの胸が
強調された。



「名無しさん、コル将軍・・は良しとしても
ドラットー将軍にまで食われないようにね」

ふふふ、と悪女的な笑いを含みながら、
モニカは名無しさんの肩に手を置いた。


「何言ってるの」


名無しさんは笑いながら、またねと
執務室へと急いだ。
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