◇お題◇

□20 不意打ちキス
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王都の近くにあるお洒落で高貴なバー。
そこで酒を交わす男女は、
大人の成熟した倫理的な話題に
花を咲かすのか、叶わぬ夢物語を
語らいだすのか・・・・どちらにせよ
気品と妖艶で溢れているこの場所で、
カップルたちは酔いしれる。

しかし久しぶりに仕事の帰りに飲みに
来た3人はそんな会話とは無縁のようだった。


「だからね、コルっていつもは眉間に
しわを寄せてこわーい顔をしているけど、
本当はとても優しいのよ、ね、
グラディオ聞いてる?」

「ああ、聞いてるって。」

「それにこう見えて、コルったら
意外に甘えん坊だし結構エッチなのよ。」


「ぶっ・・その話詳しく聞きてぇな!」


「おい名無しさん、もうよせ」

「この前もね、私がお風呂に入って
いるときにね・・・」


「・・・・名無しさん、飲みすぎだ。
そこまでにしておけ」

「まだまだ飲み足りませんー。おかわり!」

もう何杯目だろうか、名無しさんの
ワイングラスにその綺麗なルビー色を
ついでも、長くそこに留まることを知らずに
すぐ彼女の胃の中に吸収されてしまう。



「しっかし将軍が名無しさんに本気
だとはなあ」

グラディオはニヤニヤしながらウイスキーの
グラスを傾ける。

「・・・・意外か?」

コルは鼻で笑うと、グラディオと同じ
品種のウイスキーグラスを揺らした。
氷がカランと透き通った音で鳴ると、
あまりに綺麗な音に名無しさんはぼーっと
コルのグラスを見つめていた。

「まあわからなくもねぇけどな。大酒飲み
だが美人だし仕事もできるし・・・」


ふっとコルが小さく笑うと名無しさんも
呂律の回らない口調で「誉め言葉として
とっておくわ」とだけいい、酔いが回りきった
赤い顔でコルの肩に頭を乗せ、目をとじた。

「顔が良くて仕事ができるやつなんて
大勢いる、一番の決め手がなんなのか
知りたいのだろう」

「さすが将軍。」

グラディオが大きく笑うとのろけを
聞いてやるぜと付け加えた。

「この手の話はお前の得意分野だろう。
グラディオラスならすぐわかると
思ったがな。好きになる理由なんて
ないに等しい。」


「・・・・・・・・」


横を向くと自分の肩に乗っけられている
愛しい人の寝顔が見える。
コルは優しく名無しさんの頬をさっと
撫でると再び前を向きグラスに口をつけた。


その様子を見たグラディオは、いつもの
将軍からは想像もつかない甘い男のサマに
笑いをかみ殺した。

(こりゃあ将軍も相当酔ってるな)

「恋に落ちたんだな。将軍も」


「・・・そのようだな」


「え・・コルが・・恋に落ちたの・・?
ふふっ・・か〜わい〜・・将軍かわい・・」

「・・・・名無しさん、大丈夫か。
そろそろ帰るぞ」

「大丈夫ー・・もう少しこのままで
いさせてよ〜かわいい将軍さん〜」

仕事では厳しい顔を見せているのは
名無しさんも一緒で、その姿が愛する人の
前で、なおかつ好物の酒が入ると
ここまで変わってしまうのはコルと
グラディオしか知らない事実だ。

「こういう姿がたまらねぇんだろ将軍。
わかるぜ、物凄くわかる。
男はこういうギャップ弱いよなぁ・・」

「まあ否定はしない。だがこいつの
どんな姿であれ俺には全て愛おしいな」

コルの口から思いがけないのろけが
発せられると、グラディオは笑いを
堪えきれず盛大にふきだした。

「も〜・・グラディオ〜!
汚いなあ・・・」

「・・悪ぃ悪ぃ」

名無しさんは相変わらずコルの肩に頭を乗せ
寝ているようだったが、話は聞いているのか
ちょこちょこと話しに入ってこられるほどの
元気は残っているようだ。

「改めて聞くけどよ、名無しさんはどんな瞬間に将軍に落ちたんだよ」


そういえばいつ、どんな瞬間に
自分を好きになったのか聞いたことがない。
コルは静かに耳を傾けた。

「・・・・そう・・ね・・」


ようやく顔を上げた名無しさんは
残りのワインを口に運ぼうとしたが
もうよせ、とコルに止められ不機嫌に
なっていたが重い口を開き始めた。


「恋に落ちた瞬間は正直わからないのよ・・」

「なんだよ覚えてないのか?」

「でもね・・・気が付いたら将軍を
目で追ってた・・。ずっと見ていたかった」

名無しさんは横にいるコルを見てみた。
すると彼もこちらを見ていて、思わず
目線が合うと名無しさんはふきだしてしまい、
コルもすぐさま照れくさそうに視線を外した。

「ご馳走さん!二人でそんな雰囲気
醸し出されちゃあ、俺は邪魔だな」

グラディオは満足したのか、時計を
確認するとそろそろ行くかと切り出した。

「・・待って、ちょっと化粧室に行ってくる」

名無しさんは席から立ち上がり化粧室に
向かおうとしたその時、コルの目の前で
腰をかがませ、目の前に移ったその唇を
自分のそれと重ね合わせた。

「・・・・・・・」

突然のことにグラディオは固まり、
コルは手に持っていた伝票をテーブルに落としてしまった。

「・・不意打ちキスも、たまには良いでしょ」

すぐ戻るねと姿を消した名無しさんを
見送りながら、男二人は顔を赤くして
しばらく無言でいたが、やはり先に口を
開いたのはグラディオだった。


「・・・これは・・将軍が骨抜きに
されるのも納得だわ」


「・・・そうだろう」


「・・そうだろうって!!!」

今日の将軍は正直すぎるぜ!と再び
大笑いしているところに名無しさんが
戻ってくると、待ち構えていたかのように
コルが立ち上がった。

「お二人さんお待た・・・」

言いかけたとき、今度は名無しさんの
唇に柔らかい彼のそれが重なり合わさった。


「・・・されるがままは性に合わないんでな」

「・・・・・コルったら。ね、
グラディオ、意外とエッチでしょ?」

「あ、ああ・・そうだな」

もはや二人の世界に入ってしまった
コルと名無しさんは、目の前にいる
グラディオラスがやれやれといった
表情を浮かべ、後日このことがノクト達の
耳に入ることを知る由もなかった・・・。



END
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