◇お話◇

□あの時から
2ページ/3ページ



「好きな男と二人きり、しかも
夕日の見える部屋っていうバッチリの
シチュエーションで一緒に酒飲もうと
向こうからの誘い。それを断るバカが
ここにいたなんて驚きだね!」

ワインボトル2本目を開けても
これだけ毒舌が言える人、私は
アラネアしか知らない。

「なんていうかほら、例えたら
酔った勢いで100万ギルの小切手を
自らの手でビリビリに破いちゃった
おバカな女」

ああ、ここにもいた・・

ここは王都より少し離れた場所にある
ちょっと洒落た店。

小さい店だけどいかにも女性が喜びそうな
メニューがずらりと並び、程よく酔いそうな
甘いカクテルもそろっている。
しかしこの3人に甘いアルコールなんて
デザート変わり。
まずはオルティシエ産の度数が高い、
深みがあって豊潤な香りのワインを
思う存分楽しんだ。

このワインにあう料理はやはり肉、それに
大量のチーズがとろけているピザだろう。
あとは牡蠣とホタテのアヒージョ、生ハム、
サーモンのアボカドサラダがあればワインは
どんどん空になっていく。

「誘われたのはうれしかったけど、
今日は二人と飲む約束してたから」

フルボディのワインを飲み、ブルーチーズを
ひとかけら口に入れながら二人に言った。

「そんなの『今、将軍に誘われちゃった!
今日はパスさせて』って一言あたしに
連絡すればすむ話でしょうが!」

クロウも相当飲んだのに顔色一つ変わらない。
私に食って掛かって事の重大さを
話し始めた。

「あたしや姐さんがこの5年の間、
何回『思いを伝えろ』って言ってきた?
名無しさんはそのたびにそのうちねって
逃げてきたけど、そろそろ腹くくったら?」

「クロウの言うことはもっともだけど・・
まぁ月並みなことを言うとすれば、
今の関係が崩れるのが怖いのよ」

「告白して気まずくなるのは
名無しさん次第だよ。
将軍はいい大人なんだし、
相手の居心地が悪くなるような
対応はしないと思うよ。
何事もなかったかのようにしてくれるよ。
コル将軍てそういう人でしょ?」

「そうね・・まあそうだけどね」

「もーはっきりしないなぁ」

クロウは白ワインを追加で頼むと同時に
空になったアラネアのグラスにワインを
注いだ。

アラネアは「ありがと」というと、
やっと口を開いた。

「名無しさんの気持ちもわかるんだよ。
今って恋愛の一番面白いときじゃないか。
今日は会えるだろうか、話せるだろうか。
あの人は何を考えているんだろうか。
考えたらキリがない。頭の中は妄想と
想像とでいっぱいいっぱい。
この状態って楽しいよねぇ。」

いくら飲んでも正論を語り、
しかもこれだけ飲んでも落ちない
綺麗なままの真っ赤な
口紅は同姓の私から見ても
少しドキッとする。流石はアラネアだ。

「名無しさんは、将軍のどこが好きなの?」

「ちょっとクロウ。それは愚門ってもんだよ」
アラネアはにやりと笑って答えた。

「将軍のすべてが好き、なんだろ」

クロウはそれもそうだと大笑いしたけど、
一番好きなのは・・・

「あの眼。眼が好きなの。
綺麗なアイスブルーでしょ。
あの眼で見られると体に電流が走るの。
体が固まって、抱きしめてもらいたくなる・・」

「相変わらず詩人だよ名無しさんは・・」

「そのセリフ、将軍にそのまま言ってやんな」

クロウとアラネアは笑いながら私に7杯目の
ワインを注いでくれた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ