◇お話◇

□遠い昔の記憶
2ページ/2ページ


仕事のことならともかく、
苦手分野であるこの手の話の
中心に自分がいることに
耐えられなくなったコルは、

「・・報告は以上だ。
そろそろ失礼する」と

名無しさんの腕を軽くつかみ
退散しようとした。

レギスはまあ待ちなさい、と
二人を引き留めると、
わざわざ王座から降りて
二人の前に立ち、その横に
クレイラスが立った。


「二人とも、今まで想いを秘めながら
第一戦で活躍してきたのだ。
そろそろ休息も必要だろう。
ある程度の休みを取り、二人の
時間を大切にしなさい。
二人の埋め合わせくらい
なんとかしよう」

「・・・それは陛下のご命令ですか」
コルは陛下を見据えた。

するとにっこり笑い、
「そうだ、命令だ」とコルの肩に
手を置いた。

「ならば従うまでだ」

「陛下のお心遣いに感謝します。」
名無しさんも頭を下げ、二人は王室を
あとにした。





部屋を出ると、名無しさんは大きく
息を吐いた。

「驚いたよ、お二人とも
ご存知だったとは」

「俺は薄々感じてはいたがな。
その都度クレイラスにちょっかいを
出されていた。」

想像がつくわと名無しさんは笑った。

「それにしても私のことを考えて
想いを秘めていたなんてありがとう。
ていっても自分も好きになって
しまっていたんだけど・・」

「俺に度胸があればもっと早く
想いを伝えていただろう。
しかしあの時はお前の姿を
時折でも見ることができるだけで
満足だったからな」

「私も。ただもう相手を見て満足
出来るほど純粋な期間は過ぎたけど」

「そうだな」

コルは笑い、二人は長い廊下を
ゆっくり歩いた。

「そういえばモニカも言ってたっけ。
将軍が見る先にはいつも
私の姿があったって。
案外、他の隊員にバレてたりして?」

名無しさんはあははと笑い、コルの
肩を軽くたたいた。

「・・他の奴が気付いていて、
当の本人が俺に気が付かないとは皮肉だな」

「私って本当に好きな相手を
直視出来ないのよね・・。
ちらちら見るので精一杯。」

・・なるほどな、と納得したのかしないのか、
コルはエレベーターのボタンを押した。

「今週の土日は仕事を控えて
お前の行きたいところに連れて行く」

だからお前も仕事を控えろと
言うことだ。

「・・嬉しいありがとね」

二人はエレベーターに乗り、
コルは35階、名無しさんは
エントランスのボタンを押した。

しばらく静寂が流れる中、
35階にもうすぐつくというその時、
コルは「ではまた連絡する」と残し
名無しさんの右頬を優しく撫でると
風のように足早で降りて行った。


「・・・・」

彼が名無しさんに触れたの
はほんの1秒程度だったが、
頬は熱を帯びているのが
十分に感じられた。


end
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ