◇お話◇

□最高の感情
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「お前のその力は生まれつきと聞いたが」

信号が赤から青に変わったとき、
ドラットーも口を開いた。

「ええ、そうらしいです。
5歳の頃誤ってファイアで
家のカーテンを燃やしてしまい
ウォータで消火したと
両親から聞きました。」

「それは子供の悪戯を超えてるな」

「笑ってますけどね将軍。
両親は何一つ魔法が使えないんですよ」

これにはさすがの将軍もしばらく
無言になった。
車のエンジン音が車内に響く。

「・・・それはお前が突然変異で
生まれたとでもいうのか」

「さあ詳しいことは・・流石の両親も
気味悪がってすぐ施設に預けられました。
まぁそこでも化け物扱いで、私もそれが
嫌で自力ですぐ抜け出したんですけど、
そこでちょうど陛下とクレイラス様に
拾って頂いたんです。」

「お前も大変な人生だな。
自分の生い立ちを深く追求する気は
ないのか」

「そうですね・・。自分がなぜこんな
魔法を使えるのか、誰の血を引いているのか
多少は興味ありますけど、それを調べるのは
老後の楽しみにとっておきますよ」

今いるところが私の居場所だし、
今が一番幸せですから、と言うと

ドラットーがお前はやはり
頼もしいな、と言いアクセル
を深く踏むと、風のように
王都の駐車場に流れていった。

「お前の過去がどうであれ、今の
警護隊に必要不可欠な存在には
変わりない。今後も気を抜かずに
部下の育成を頼むぞ」

「もちろんです」

その時だ。前方を見ると、
コルがこの車の向かいに
駐車しようとしているのが見えた。
コルもこちらに気がついて、
一瞬眉間にシワが寄ったのを
名無しさんは見逃さなかった。

名無しさんは少しドキリとした。
もちろん何の意味もないが
ドラットーの車に二人きりで
乗っていることに、彼はどう
思っているのか。
名無しさんは早く車から降りなければと
早々とシートベルトを外した。

「将軍、ありがとうございました。」

「ああ。では今日は頼んだぞ。
後ほど王の剣とお前の部隊全員を
作戦会議室に集合させておけ。」

「わかりました。」

コルは名無しさん達を待っているのだろう。
自分の車の前で立ち、こちらを
静観していた。

ドアを開けようと横を向いた瞬間、
ドラットーに「待て」と
止められた。

「髪にゴミがついてるぞ」

「・・え」

「取ってもいいか」

「あ、はい・・」

ドラットーの大きな手が
髪にふんわり触れた。

・・・・とてもまずい状況だ。
すぐ目の前にはコルが冷たい目を
してこちらを見ていたかと
思うと、今度は目を背けられた。

ドラットーにお礼を言うと急いで
車から降り、コルに駆け寄った。

「コル・・将軍おはようございます」

「ああ。」

「お前も今日は夜勤か」

「ああ。」


「今日は車の調子が悪くて
電車で来たら、駅前でドラットー
将軍が拾ってくれた・・んです。」

「・・そうか」

「お前は今日はメルダシオ本部に
顔を出すと言っていたな」

「ああ。」

この威圧感たっぷりのダブル将軍に
挟まれ、名無しさんたち三人は
王都に歩いて行く。

何かの雑誌で読んだことがある。
男性が無口になったり
口数が少なくなった時は
嫉妬してる証拠だと。
正に「・・ああ」しか発して
いない今の彼そのものだ。

でもまさか、あれくらいで
嫉妬するような小さい男ではないはずだ。
きっとお腹の調子が悪いのかも、
と無理矢理にでも思うようにした。

名無しさんは二人に挟まれながらこんな
ことを悶々と考えてる時、
ドラットーのスマホがなった。

先に行け、と言うと電話で
話始めたのをチャンスに
名無しさんはコルに小さい声で話しかけた。

「ドラットー将軍の車に乗ってて
驚いた?」

「・・多少はな。」

「ごめん、特に断る理由も
なかったから・・」

「いや謝ることはない、しかし・・」

「名無しさん」

コルが何かをいいかけたその時、
ドラットーがそれを遮るように
名前を呼んだ。

「今、レスタルム周辺で
チャダルヌークが出没したと
ルーチェから連絡が入った。」

「チャダルヌークって・・ああ、
女性の悪霊ですよね。
あれは物理攻撃は効きづらいですよ。」

「ああ。正に合同訓練にふさわしいな。
今、クロウが中心となっている。
護送車を用意させたから今から行って
お前が指揮を取れ。
今日の訓練は場所を変更して
レスタルム周辺だ。

私もすぐ行く。」

「了解」

コルに頭を下げると、ようやく
「気をつけて行け。」と
声をかけてくれたことに名無しさんは
少し安心した。
コルが何をいいかけたのかは、
帰ったらゆっくり電話で
話そう。名無しさんはそう思いながら
急いで護送車に向かって走った。
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