本棚 2
□愛故に 4
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「カール様、ご機嫌よう!」
「ご機嫌よう、ソフィア。」
「お忙しい中、私のために時間を割いて、」
「ソフィア。今は公の場ではないから、いつもみたいに話してくれないか?」
「あ、そうだった。ごめんなさい。うっかりしてた。」
「そんなうっかりしてるソフィアも可愛いよ。」
「もう!カール様、揶揄わないで!」
今日は定期的に開いている、ソフィアとの庭園でのお茶会の日。忙殺される毎日の中での癒しの時間だ。
「今日はどんなお菓子を持ってきてくれたんだい?」
「今日はね、マドレーヌだよ!召し上がれ!」
「美味しそうだね。」
「どう?」
「美味しいよ。この香りはレモンかな?」
「そうアクセントにレモンジャムを入れたの!うん!バターとレモンがちょうどいいバランス!我ながらよくできた!」
「また料理の腕を上げたんじゃないか?」
「本当?そうだったらいいなー。」
ソフィアは料理が趣味になったらしく、お茶会のたびに、こうして何かを持参してくれるのだ。
「ソフィアどうしたんだい?」
急にソフィアが振り返ったのだ。
「赤ちゃんの泣き声聞こえない?」
「ああ。」
ソフィアの後ろの方には城がある。確かにそちらから赤ん坊の泣き声がする。
「おそらくシュウの泣き声だろう。」
「シュウ?」
「ああ。ベアトリクスとの子だ。」
「女の子?男の子?」
「男。逆巻家の長男だよ。」
「へえー!」
そのうち君も逆巻家の子を産むんだけどね。と心の中で呟く。
「ねえ。カール様。シュウ様に会ってみたい!」
「え?」
「だめ?」
「…いいよ。シュウの所へ行こうか。」
「やったー!」
「シュウに様はいらないからね。シュウ君でいいよ。」
「はーい!」
まったく私はソフィアに弱いな。せっかくのソフィアとのお茶会が終わってしまうのは残念だが、滅多にないソフィアからのお願いを断るわけにはいかないからね。
:
コンコンコン
「はい。」
「私だ。」
ガチャッ
「カールハインツ様!どうしてこちらに⁉」
「ソフィアがシュウに会いたいと言っていてな。」
「ですが、シュウ様は…。」
「泣いているのだろう?それでも構わない。ソフィアおいで。」
「失礼します。」
ソフィアと共にシュウがいる部屋へと足を踏み入れる。
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
「あの子がシュウ君?」
「ああそうだよ。一度でも泣き出すとなかなか泣き止まないらしい。」
「そうなんだ。」
そう言ってソフィアはシュウに近づいていく。
「乳母さん、何か赤ちゃん用のおもちゃありますか?」
「え? はい。ありますけど…。」
「貸してください。」
何をするつもりだ?
「シュウ君ー。ガラガラ好きかな?」
ソフィアは花のような笑顔でシュウに語りかけた。シュウは泣きながらもソフィアの方を見た。
「これね、振るとガラガラって鳴るんだよー。やってみてー。」
そう言ってシュウの手に音が鳴るおもちゃを握らせた。そしてシュウの腕を握って少し振った。
ガラガラ…。
「ほらガラガラしたでしょ?すごいねー。もうちょっと振ってみようかー。」
そんなことを繰り返すうちに、シュウは泣き止みキャキャと楽しそうに声をあげ始めた。私はソフィアとシュウに近づいて、問いかけた。
「ソフィアはどこで赤ん坊のあやしかたを学んだのかな?」
「え?あー、これは昔乳母が私にやってくれてたことなの。」
「そうなのか。ソフィアはいいお母さんになれるね。」
「そうだといいな!」
こうして、ソフィアとシュウは出会ったのだ。