薄桜鬼『桜恋録』1

□No.11
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名前「………これ死ぬわ」




この言葉が誰かに届くことはきっとない。

私の声は狭い部屋に反響して、儚くも一瞬で消えてしまう。


パチパチという火鉢の音だけが、部屋に響いている……。





みなさん、どうもこんにちは。

寒い中、いかがお過ごしでしょうか。


………さて。

私は今、死ぬことを悟りました。



いや別に、練炭自殺とかじゃないからね。

主人公ここで死んじゃったらこの小説終わるからね。

絶対どこにも無いだろ、死ネタで夢主が初っ端に練炭自殺する夢小説なんて。





……目の前にあるのは、まるで呪いの言葉のようにびっしりと文字が書かれている本。


ねえ、これなんだと思う?

これね、お経。


そしてその隣には紙と筆。



……私が何をしようとしているか、わかった人もいるよね?



答えはそう。

写経です。




名前「ってできるか!!精神病むわこんなもん!!」




私はそう言って本を放り投げた。



……気づいた人もいるかもしれないけど、前回に引き続き、今日も今日とて斎藤さんの部屋でお勉強中です。

でも本を放り投げるなんて、斎藤さんがいるもんならできることじゃない。



──── そう。

今この場に、斎藤さんはいないのです。




名前「あーあ、疲れた」




一文字も書かないまま、私は畳に寝っ転がった。



……つい先程までは、斎藤さんが勉強を教えてくれていた。

だけど巡察の時間になってしまったようで、そちらに行ってしまった。


W俺はこれから巡察に行ってくる。その間、これを書き写していろW


という言葉と共に、本を残して。




何日か前に斎藤さんに迷惑をかけないように改心したとは言ったものの(前回の話より)、だからと言って急に物覚えが良くなるわけでも勉強ができるようになるわけでもない。

そのため、早々に飽きてしまってるというわけだ。


ましてや写経なんて。

1分も集中できない人間にできるわけないじゃない。

文字を見ているだけで目が回りそうだ。



何か面白いことないかな、とため息をついた時だった。




原田「 ──── 斎藤、入るぜ」


名前「えっ」




左之さんの声がしたかと思うとスッと障子が空いた。

冷たい空気が一気に入り込み、私はブルッと身を震わせる。




原田「……名前?」




左之さんが目をパチクリさせて私を見ている。

彼の目が、『なんでこんな所に?』と言っている。




名前「……あ、あのね、」




口を開きかけた時だった。
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