薄桜鬼『桜恋録』1

□No.21
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──── あれから私は、今まで通りみんなと接しながら過ごすようになった。


左之さんや千鶴とのんびりお話したり、新八っつぁんや平助の酒盛りに付き合ったり、一君には勉強を教えてもらったり、沖田さんによる豊玉発句集の読み聞かせを聞いたり。



……だけど、やっぱりまだ屯所の外に出るのは怖くて。

誰かとお出かけしたり稽古をしたりするのは休んでいた。





──── 屯所でそんな生活をし始めて2週間ほどが経った、ある日のことだった。




名前「……え?外?」




私は思わず聞き返した。




原田「ああ。無理にとは言わねえが、久々に散歩でもしねえか?そろそろ日浴びねえと、さすがのお前でも参っちまうと思うぜ」


名前「う、うん……でも……」




──── 外。


少し前までの私なら、喜んで行ったのに。

今では外に行くことを考えるだけで怖くなってしまっている。

そんな私の心の内を読み取ったのか、左之さんの大きな手が私の頭を撫でた。




原田「大丈夫だ。何があってもお前のことは必ず守る。二の舞を演じるつもりはねえよ」




そう言った左之さんの目はとても力強く、固い決心があらわれていた。

そんな目で見つめられ、私の心臓はドキリと跳ねる。




名前「……あ……う、でも……土方さんが何て言うか……」




この間の自殺未遂以降、土方さんは私の行動をかなり警戒しているようで、未だに脇差は返してもらえていなかった。

それどころか刃物がある所に私を一切近づけようとはせず、包丁がある台所も出入り禁止になってしまった。


別にもうあんな馬鹿なことするつもりなんてないから、ちょっと過保護すぎる気もするけど……。




原田「ああ、土方さんなら心配ねえよ。ちゃんと許可も貰っておいたぜ、ほら」


名前「……あ!」




左之さんがそう言って私に見せてきたのは、私の脇差だった。




原田「外に出るなら念の為、だとよ。ま、俺はお前にこんなもん使わせるつもりはねえけどな」




と言って左之さんは笑い、私に刀を差し出してきた。

私はおずおずとその刀を受け取る。




原田「……な?名前。だから少しだけ、外に出てみねえか?」




目の前に、大きな手が差し伸べられる。

この手は何度も、私を救ってくれた手だ。


──── 左之さんとなら、きっと大丈夫。


私はそっと、彼の手に自分の手を重ねた。




名前「 ──── うん。行きたい」





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