薄桜鬼『剣舞録』 過去編
□第2話
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沖田「─── はい、これで僕の勝ちだね」
名前「うわああああーーーっ!!」
不敵に微笑む総司君を前に、私は膝から崩れ落ちた。
周りの兄弟子さん達からは「やっと終わったか」と言いたげな空気が流れ、ぞろぞろと道場から人が出て行き始める。
沖田「これで僕が353戦177勝176敗」
今日は残念だったね、と総司君は笑った。
これで総司君に勝ち越されたか。
というか、よくそんなに覚えてるよね。
……いや、だけど正直私にはもっと重大な問題がある。
名前「僕の金平糖〜〜〜っ!!!」
沖田「君が隠してたのが悪いんだよ」
私は渋々懐から金平糖の入った包を出し、総司君に手渡す。
そう、今日の勝負には私の金平糖を賭けていたのだ。
総司君が勝ったら私の金平糖を渡す、私が勝ったら総司君に草むしりと畑仕事を手伝ってもらうという条件だ。
私は家庭菜園で野菜や花を作って売っているのだが、そのお金は皆の生活のため全て試衛館に入れている。
そのためか近藤さんは、時々私にはお小遣いをくれる。
しかし金平糖は砂糖を使っているので高価なお菓子だ。
お小遣いを何ヶ月も貯めて、漸く買った物だったのに……。
つい先程、浮き足立ちながら金平糖を買って帰って来たところを総司君に見つかってしまい、この状況に至る。
呆気なく奪われて封を開けられる金平糖を見て、私は肩を落とした。
沖田「……ちょっと、そんなに落ち込まないでよ。ほら、おいで。一緒に食べようよ」
名前「……えっ、いいの?」
沖田「目の前でそんな悲しそうな顔されたら、美味しく食べられないからね」
名前「やったー!ありがとう、総司君!」
私は総司君の隣にすっ飛んで行った。
何だかんだで総司君は優しいから、私はそんな彼が大好きだ。
……いや待て、これ元々私の金平糖じゃん。
ま、いいか!
土方「……お前ら、何のために勝負してたんだよ」
後ろから飛んできた声に金平糖を食べながら振り返れば、土方歳三さんが呆れたように此方を見ていた。
土方さんは2年程前にこの試衛館にやって来た。
土方さんの従兄弟の佐藤彦五郎さんの道場で稽古をしていた時に近藤さんに出会い、天然理心流に入門したのだそうだ。
実家で作っている薬を売りながらこの道場で一緒に暮らしており、私が女だと知っている数少ない1人である。
土方さんも私と同じく、稼いだお金は試衛館に入れてくれていた (実家にも送っているみたい)。
名前「あはは、確かにそうですね!でも僕が勝っても、畑と草むしりをした後に一緒に食べるつもりでした」
沖田「名前は優しいね、どこかの誰かさんと違って」
土方「……おい総司、何故此方を見るんだ」
土方さんの眉間に皺が寄った。
総司君と土方さんはよく喧嘩(?)をしている。
喧嘩といっても総司君が悪戯をして土方さんがそれに怒ってるっていう感じだけど。
まあでも、喧嘩するほど仲がいいっていうし……。
名前「まあまあ2人とも!ね、土方さんも食べません?すっごく美味しいですよ」
沖田「ちょっと、こんなに高価な物をあんな人にあげることないよ」
土方「おいどういう意味だ総司」
名前「総司君、僕の分から取るから大丈夫だよ。……はいどうぞ、土方さん!」
土方「すまねえな。……うめえよ、名前」
名前「よかった〜!」
総司君と話す時は目がつり上がってる土方さんだけど(怒ってることがほとんどだから)、私と話す時は少しだけ優しい表情になる。
……まあ、私もたまに総司君の悪戯に巻き込まれて怒られることもあるけど。
沖田「名前って本当にお人好しだよね。……僕のちょっとあげる」
名前「えっ、本当に?ありがとう〜!」
やっぱり総司君は優しい、悪戯好きだけど。
2人仲良く肩をくっ付けて食べていると、道場に入ってきた人物が1人。