第二章(新選組奇譚)
□第3話
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〜 千鶴 視点 〜
──── 雀の鳴き声が耳に入り、私はハッと目を覚ました。
目に映った其処は全く知らない部屋で、一瞬どきりと心臓が跳ねる。
此処は……?
体もキツく縛られているようで全く身動きが取れないし、口も布で塞がれている。
……と、障子戸に2人の人影が映った。
だ、誰……っ!?
?1「失礼します」
千鶴「っ!」
聞こえてきたのは想像よりも優しげな声。
だけど緊張しきっている私の体はビクリと震えた。
そして、スッと障子戸が開く。
?2「目が覚めたかい?すまないねえ、こんな扱いで……。名前、縄を解いてあげてくれるかい?」
名前「はい。……ちょっと失礼しますね」
現れたのは2人の男性。
柔和な雰囲気の男性と、右目に包帯を巻いている顔立ちの整った青年だった。
名前、と呼ばれた包帯の青年は私の縄を解き始める。
名前「うわあ、絶対これ総司君でしょ。容赦ないんだから、もう……」
?2「すまないね、こんなにキツく縛り上げられたら辛かっただろう。口の布を取るからね」
青年が縄を解いている間に、その男性は私の口元に巻かれていた布を取ってくれた。
名前「……よし、やっと解けた。起き上がれますか?」
千鶴「は、はい……。あの、此処は何処ですか?お2人は、一体……?」
名前「すみません、申し遅れました。僕は苗字名前という者です」
井上「私は井上源三郎だ。此処は新選組の屯所だよ」
千鶴「新選組っ!?」
聞かされた事実に思わず声を上げてしまう。
新選組といえば京の治安を守る為に結成された組織だと聞くが、その評判は全くいいものではない。
無慈悲な人斬り集団だという噂は江戸にまで広がっている。
井上「そんなに驚かなくてもいい。ちょっと来てくれるかい?」
千鶴「えっ……」
井上さんは優しげな口調だが、私に断る権利は無いのだろう。
俯きながら立ち上がる私に、柔らかな笑顔を向けてくれたのは苗字さんだった。
名前「そんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ。皆、口は悪いですが良い人達ですので。僕も貴方の傍に付いていますから」
千鶴「は、はい……」
人斬り集団と噂の新選組が、本当に良い人達なのだろうか……。
だけど井上さんや苗字さんは、私が聞いていた新選組の印象からは程遠いように感じる。
井上さんは物腰柔らかだし、苗字さんはとても丁寧で優しそうな人だった。
そんな彼らに連れられて、私はその部屋を去った……。