第二章(新選組奇譚)

□第5話
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〜 千鶴 視点 〜




──── 私が新選組の屯所で生活するようになって、早十二日。


言いつけ通り、厠や湯浴み以外で部屋の外には出ていない。

だけど名前さんのおかげで、全然退屈には感じなかった。


名前さんは毎日朝昼晩の食事を私の部屋で一緒に食べてくれる。

それ以外にも午前と午後に1回ずつ私の所へ様子を見にきてくれるし、湯浴みも毎日一緒にしてくれる。



加えて、これは偶然なんだろうけど名前さんの部屋は私の隣の部屋らしい。

日中はあまりいないけど夜は基本的にいるとの事だったし、何かあったら声を出さなくても私が壁を叩けばすぐに此方へ来てくれるみたい。



きっと土方さんの言いつけで私を監視しているのだろうけど、名前さんは全くそんな素振りを見せない。

毎日色んな話をしてくれて、私を楽しませてくれる。

他の人に意地悪な事をされていないか、とか私のことをとても心配してくれる。


だからもし私を監視をしているのであったとしても、名前さんの存在は私にとって本当に有難かった。



……しかし、いつも通りならそろそろ名前さんが夕食を持って来てくれる時間のはずなのだけど、何故か今日はやって来る気配がない。


それに、午後も顔を見せてはくれなかった。

きっとお仕事があって忙しいのだと思うけど……。



なんだか不安になって、私は円窓から外を眺める。

外は、見事なまでの雪景色で銀世界だ。




千鶴「……それにしても、いつになったら父様を探しに行けるんだろう。もしかして私、このままずっと幽閉されちゃうんじゃ……」


沖田「それは君の心がけ次第なんじゃないかな」


千鶴「えっ!?」




突然下から聞こえてきた声に驚き其方を見ると、沖田さんが座っていた。




千鶴「どっ、どうして沖田さんがっ!?」


沖田「あれ?もしかして気付いて無かったとか?この時間帯は僕が君の監視役なんだけどな」


千鶴「えっ?私の監視役って、名前さんじゃないんですか?」




目を見開いて尋ねると、沖田さんは困ったような顔になった。




沖田「君の監視役は僕等が交代でやってるの。名前が君の所へ来てるのは、あの子の意思。君のことを心配して来てるんだよ、君が不安にならないようにって」



千鶴「えっ!?そ、そんな……!」




そうだとしたら私は、なんて失礼な勘違いをしてしまっていたんだろう。

きっと名前さんは、仕事の時間を削って私の所に来てくださっていたのかもしれない。

それを監視のためだなんて……。




千鶴「あ、あの!私てっきり監視のために名前さんが来てくださってるのかと……。名前さんは何処にいらっしゃいますか?お礼を言いたいのですが」


沖田「あれ?なんだ、監視じゃないって言ってなかったんだ。名前なら今は近藤さんのお使いに行ってるはずだよ」


千鶴「そ、そうですか……」


沖田「本当、君に対して過保護だよねえ、名前って」


斎藤「過保護な点ならば、総司も名前に対して過保護だろう」


千鶴「へっ!?」




今度は右側から聞こえてきた声。

驚いて少しだけ顔を出せば、斎藤さんがお膳を持って来て下さっていた。




千鶴「さ、斎藤さん!いつからそこに……」


斎藤「最初からだ」


沖田「僕が過保護なら、一君も大概だと思うけど?」


斎藤「……そんな事はない」


沖田「ふうん。ま、あの子に対して過保護になっちゃうのはわかるけどね。僕も自覚あるし」


斎藤「俺は違うと言っているだろう」


沖田「あれ?毎日名前にだけ体調の善し悪しとか昨夜はちゃんと寝たかとか確認してるのは、どこの誰だっけ?」


斎藤「……それは、以前名前が5日間も殆ど寝ずに仕事をしていたからだ」




……なんだか、妙な言い合いが始まっている。

だけど、こういう会話を聞く度に名前さんがどれだけ大切にされているのかが伝わってくる。


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