薄桜鬼『銀桜録』

□第3話
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──── ある日の朝四ツ半(11時)頃。


江戸の町中にある、とある団子屋には名前の声が響いていた。




名前「んー!これすっごく美味しい!黒豆きな粉が一番美味しいです、お松さん!」


松「あら、本当!?じゃあそれにしようかしらね!」




団子を頬張り目を輝かせる名前と、嬉しそうに笑う団子屋で働くお松。

その場には穏やかな空気が流れていた。



名前は試衛館の裏庭に小さな畑を持っており、そこでは様々な野菜や花を育てている。

野菜は基本的に試衛館での食事に使うが、花は町で売って歩いている。

つまり名前は、家事だけではなく商売もしているのだ。


名前のこまめで世話好きな性格が功を奏したのか、裏庭にはいつも見事な花が咲いている。

名前の育てる花は町でも評判が良く、冠婚葬祭のためにだとか、家に飾るためにだとかで毎度気持ちいい程に売れるのだ。

この商売を数年前から行っているため、町には名前の顔見知りが多い。

団子屋のお松もそのうちの一人である。



別に名前は、商売を怠けて団子を食べているわけではない。

団子屋の主人とお松が新作として出す団子を決めたいらしく、たまたま通りかかった名前が試食に協力することになったのである。

食べることが大好きな名前の好きな品は、いつも他の客にも人気なのだとか。

それに加えて、小柄な体の割に胃袋が大きな名前には持ってこいの仕事であった。




名前「じゃあこれから黒豆きな粉のお団子がいつでも食べれるようになるんですね!嬉しい〜!」


松「そう言ってもらえると旦那が喜ぶわ」




ご馳走様でした、と名前は満足気に挨拶をした。


試食とはいえ美味しい団子を無料で食べさせてもらったので、名前は籠から数本の花を取り出してお松にあげた。

しかしそのお礼とお土産を兼ねて黒豆きな粉の団子を持たせてくれたので、お松はかなり気前の良い人である。

お松自身、名前よりも一回り以上年上なため、彼女を娘のように可愛がっているのだ。



また来ます、とお松と旦那に挨拶をし、名前は店を出て商売を再開する。

今日もいつもと変わらず、ゆったりと時間が流れていた。


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