薄桜鬼『桜恋録』1

□No.9
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名前「くっそぅあの鬼副長め、覚えてろよ……!!」




こんなことが言えるのは、自分の部屋で仕事中の土方さんには聞こえるはずのない場所で呟いているからである。


ちょっと用事があって行っただけなのに!


理不尽に命じられたが逆らったところでまた更に仕事を追加されるだけなので、おとなしく拭き掃除を引き受けた私。




そして夕方、なんとか屯所の拭き掃除を終えた。

ああ、せっかくいい天気だったのになあ……。




原田「お、ここにいたのか。今日は拭き掃除か、お疲れさん」


名前「あ、左之さん!お帰りなさい!」




後ろから声をかけられたので振り返れば、左之さんがいた。

巡察が終わって戻ってきたのだろう。




名前「ねえ聞いてよ左之さん!土方さんってばひどいんだよ!?」


原田「ったく、今日は一体何したんだ?」


名前「何もしてないんだって!」




左之さんはすごく優しい。


巡察終わりで疲れているはずなのにいつも私の部屋に来てくれて、いろんな話を聞かせてくれる。

私が土方さんの愚痴を言ってもずっと話を聞いてくれるし、慰めてくれる。


私はそんな紳士な左之さんが大好きで、最近は左之さんが暇そうだったらいつもついて回っていた(いや別にストーカーとかではなく)。

今だってさりげなく私の代わりに桶の水を捨ててくれている。




名前「ありがとう」


原田「気にすんな。で、土方さんが何だって?」


名前「そう、聞いてよ!今日ね、土方さんの部屋に行っただけで拭き掃除命じられたんだよ!?私何もしてないのに!!」


原田「……ちなみに何しに行ったんだ?」


名前「『名前ね、お外行きたいの。お・ね・が・い❤』って言いに行った」


原田「……どっちにしろ拭き掃除だろ」


名前「ねえそんな冷たい目で見ないでお願い」




左之さんはあきれたように笑って縁側に腰掛けた。

私もその隣に腰掛ける。




原田「お、そうだ。今日は土産買ってきたぜ」


名前「えっ、お土産!?」




左之さんは懐から金平糖の入った袋を取り出した。




名前「わあ金平糖だ!嬉しい!ありが、」




……でも、受け取ろうと手を伸ばしたらひょいと躱された。

えい、えい、と何回もトライするけど左之さんは一向に金平糖をくれないし、私もリーチが足りないので全く届かない。


……しばらくその攻防が続き、ジャッ〇ーチェンのカンフー映画みたいになった。




名前「ちょ、ちょっと……ゼェゼェ……くれないの……?」




すると左之さんはニヤリと笑った。




原田「今日お前炊事当番だったよな?」


名前「ギクッ」


原田「美味くできたらご褒美にやるぜ」


名前「無理じゃん」


原田「いや諦めんなよ……」




何せ私は斎藤さんお墨付きの料理の下手さだ。


いつだったか左之さんが料理教えてくれるって言ってたけど左之さんは最近忙しいみたいで、私が最後に料理をしたのは沖田さんとの伝説のあのクッキングである。




名前「だって私料理できないもん……」


原田「んな落ち込んだ顔すんなって。俺が教えるっていつだったか約束しただろ?」


名前「えっ、教えてくれるの!?」


原田「ああ、今日は俺も炊事当番だしな」


名前「マジでか!」




これは金平糖ゲットのチャンスかもしれない。


それに、優しい左之さんがやっぱり大好きだ。
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