薄桜鬼『桜恋録』1

□No.10
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──── 事の始まりは1週間くらい前。


いつものように私が土方さんに怒られ、説教を食らっていた時。




土方「苗字、お前は今日から書類整理だ。終わるまでこの部屋から出るんじゃねえぞ」


名前「えっ!終わるまでってことは……一晩中ってことですか!?」


土方「何故一晩かかる前提なんだ、就寝時間までに死ぬ気で終わらせろ」


名前「またまたそんなこと言っちゃって、私と2人でいちゃこらしたいんでしょ」


土方「………………(チャキッ」


名前「ごめんなさいごめんなさいふざけましたもう二度と言わないので刀納めてください!!」


土方「さっさと片付けやがれ!!!」


名前「ひいいいいっ!!!」




……ここまではいい。

いや、別に良くはないんだけどさ?


いつも通りだからいいっていうか。


問題はここからだ。



目の前には、大量の書類。

書類なのでもちろん全てにびっしりと文字が書いてある。


しかし、ふにゃふにゃとしたその文字は現代とは全く異なるもので、私なんかに読めるはずもなく。

目を凝らして見れば何とか読める字もあるが、そんなものはほんの一部。


……仕方あるまい。




名前「……あの、土方さん」


土方「黙ってやれ」




私に背を向けて、仕事をしている土方さん。

私の方を見向きもせずに、呼びかけただけで一喝してくる。


いや、酷いな。

まだ何も言ってないのに。


日頃の行いのせいだとか思ったお前ら、あとで体育館裏来いや。


……おっと、話が逸れてしまった。




名前「……あの、土方さん。ちょっとこれ、読めないんですけど」


土方「……あぁ?」




やっと土方さんはこちらを向いた。

その眉間にはシワがよっている。




土方「どれだ」


名前「これです」




私は土方さんに書類を全て渡す。




土方「………って全部じゃねえか!!!!!」


名前「ひいいいいっ!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」




だってしょうがないじゃない、読めないものは読めないんだもん!!




土方「読み書きもできねえのか?未来とやらの人間はそんなこともできねえのか」




いやできるよ!!

150年後は識字率100%だからな!!!


だがな、現代とは字が違いすぎて読めないんじゃ!!

なんだこのへにゃへにゃした文字は!ミミズか!!


呆れたように土方さんに言われてなんだか腹が立ったので、私は咄嗟に泣きそうな顔を作ってみせる。




名前「……じ、実は……私の家、ものすごく貧しくて。学校……あ、寺子屋みたいなもんです、そこに通う余裕もなくて。おとっつぁんもおっかさんも、読み書きができなくって。それに私が長女だから勉強なんてさせてもらえなくて。だ、だからわたし、」


土方「わ、わかった。もういい。悪いことを言ったな、すまなかった。だから泣くな」




ぶひゃーーー!!!

ぎゃははははははは!!!

騙されてやんのーーー!!!!


見てこの、気まずそうな土方さんの顔!!
(※小説なので見えません。)



もちろんさっきのは口から出まかせ120%だ。

未来の生活のことなんて土方さんが知るはずもないから、なんとでも嘘はつける。


てか、めちゃくちゃ演技上手いな私。

これはもしや、これからも使えるのでは?


顔は泣きそうな表情をキープしながら、心の中ではニヒルな笑みを浮かべた時だった。



……このちょっとした嘘が、まさかこんなことに繋がるなんて。
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