薄桜鬼『桜恋録』1

□No.11
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藤堂「なに、一君いねぇの?って、名前じゃん」


永倉「なに、名前ちゃん?……って、ああ!火鉢あるじゃねえか!ちょっくら入れてもらうぜ」


藤堂「おお、寒い寒い」




左之さんの後ろからそんな声が聞こえたかと思うと、平助と新八っつぁんがズカズカと部屋に入り込んできた。




原田「……斎藤は巡察か?」


名前「うん。私はお勉強中なの」


原田「精が出るじゃねえか。ところで、ちょっと温まっていってもいいか?」


名前「もちろん!……もう既に温まってる人達いるけどね」




私と左之さんの視線の先には、火鉢を囲んでいる新八っつぁんと平助。

寒くないのかな、あんなに肌出して。


あ、寒いから温まりに来てるのか。

いや衣替えしろよ普通に。




原田「悪ぃな。ほら、千鶴。入れよ」


千鶴「は、はいっ」


名前「え、千鶴?」


千鶴「あっ、名前!お邪魔します」




左之さんが手招きすると、ひょっこりと千鶴が顔を出した。

何この可愛いひょっこりはん。


千鶴はおずおずと部屋に入ってくる。

そんな彼女の手は、真っ赤だ。


……あ、いや、血に染ってたとかではなく。




名前「っ!どうしたのその手!!」




私はギョッとして千鶴に駆け寄り、自分の両手で千鶴の手を包み込んだ。




千鶴「……温かい……」




千鶴がほっとしたように微笑む。




原田「ほら千鶴、早く火鉢にあたれ。お前らもうちょい場所空けろ、千鶴優先だ」


永倉「わあってるって」


平助「千鶴、来いよー」


千鶴「う、うん」




千鶴は私にありがとうと言ってから、火鉢の近くに行って腰を下ろした。


千鶴の手が離れても、彼女の体温が私の手に残っている。

驚くくらいの冷たさだったのだ。




原田「……洗濯をしてくれていたみたいでな。風呂場で凍えていたんだ」


名前「ああ、それでか!」




それならあの手の冷たさも納得がいく。


いやしかし、本当に申し訳ない。

最近私は勉強と稽古ばかりさせられているため、千鶴の手伝いが全くできないでいるのだ。


私は千鶴の傍に行き、自分の羽織で千鶴を包んだ。




千鶴「!?だ、大丈夫だよ名前!寒いでしょう?」


名前「ダメだよ、そんなに凍えてるのに。ごめんね、最近掃除手伝ってあげられなくて……」


千鶴「ううん。名前、すごく頑張ってるから、私も頑張らなくちゃ」




そう言って千鶴はニコリと笑った。


可愛い!可愛すぎる!!!

天使が舞い降りたぞ!!!




藤堂「顔ニヤけてるぞー、名前」


名前「うっさいな、可愛いもん見たらニヤけるでしょ」


永倉「ほんっと名前ちゃんは男みてえなところがあるよなぁ」




ゲラゲラと新八っつぁんに笑われ、私はムスッとしながら千鶴の隣に座る。

そんな私の隣には左之さんが座った。




藤堂「……あったけ〜〜〜」


永倉「身に染みるぜ……」




私たちはそれ以上何も話さずに、ボーッと火鉢を見て過ごしていた。


……しばらくして沈黙を破ったのは、平助だった。




藤堂「……暇……」
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