薄桜鬼『桜恋録』1

□No.12 @
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〜 no side 〜




土方「…………遅せぇ」




土方はそう呟いて眉を顰めた。

もちろん、名前のことである。




土方「……ったく、何やってやがる」




土方は舌打ちをして筆を置くと、名前の部屋へと向かう。




土方「苗字!!来いっつったろうが!!」




スパーン!!と勢いよく名前の部屋の障子戸を開ける土方。


……しかしそこには、誰もいない。




土方「……ったく、どこ行きやがったんだ」




ぶつくさ呟きながらも土方は屯所内を探して回る。


……しかし名前は、どこにもいなかった。




藤堂「 ──── あれ?土方さん、何してんの?こんな所で」




後ろから声をかけられ振り返れば、そこに居たのは大量の洗濯物を抱えた平助と千鶴だった。

どうやら平助は千鶴の手伝いをしているらしい。




土方「お前ら、苗字を見なかったか?」


藤堂「オレは見てねえけど……」


千鶴「私も見てないです」




平助と千鶴はキョトンとして顔を見合わせている。




土方「そうか、悪いな。……ちっ、仕方ねえな……」




後に回すか、と土方はため息をついて部屋に戻って行った……。













土方「……………遅せぇ」




あれから一刻半(3時間)ほど経つが、未だ名前は顔を見せない。




土方「……あの野郎、いい加減にしろよ……」




土方はコメカミに青筋を立てながら再び部屋を出る。

すると、




原田「うおっ!?」




ちょうど土方の部屋の前を通りかかった原田が、部屋から突然鬼の形相で出てきた土方に驚いて声をあげた。




土方「おう、原田か。苗字を見なかったか?」


原田「名前?見てねえが……なんだ、いねえのか?せっかく金平糖買ってきてやったのに……」


土方「数刻前から姿が見えなくてな」




すると前の方から斎藤が歩いてきた。




原田「お、斎藤。名前見なかったか?」


斎藤「……実は俺も、苗字を探していたところだ」


土方「何だってんだ、全く……」




……何かがおかしい。

土方はそう感じ始めていた。



そもそも名前は、これまで一度も約束をすっぽかしたことがなかった。

怒られるのがわかっていようが稽古や勉強が嫌だろうが、絶対にそれから逃げたことはなかった。

そんな名前が、土方からの呼び出しも斎藤の勉強も放り出して、消えてしまった。


……何かがおかしい。




土方「……まあ、そのうち夕餉の匂いに釣られて出てくるだろ」


原田「犬か何かかよ名前は……」




何かが引っかかりながらも、土方は再び部屋に戻ったのだった…。
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