薄桜鬼『桜恋録』1
□No.19 @
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名前「 ──── あ!ここの小間物屋、この間千姫と来たんだよ」
原田「そうなのか」
名前「うん!私こういうお店大好きだから、すっごい楽しかった!」
原田「よかったじゃねぇか。見て行くか?」
名前「うん!」
左之さんは本当に優しい。
嫌な顔ひとつしないで、私に付き合ってくれる。
小間物屋に入れば、色とりどりの様々な商品が私を魅了する。
私は本当に、このお店が好きだ。
この簪は千鶴に似合いそうだなー、とか、これは千姫に似合いそう、とか考えながら見て回るのが好きなんだ。
……そして私はふと、ある櫛に目をとめる。
それは、黒い漆塗りの小さな櫛で、桜の花びらの絵が施されていた。
名前「………綺麗………」
私は思わず、その櫛に釘付けになる。
……って、ダメダメ。
私は男装してるんだから、こんなに綺麗な櫛とはほとんど縁がない。
……未練が残らないように、早めに店を出ることにした。
名前「左之さん!行こ」
原田「ん?なんだ、もういいのか?」
名前「うん。……お腹いっぱいで苦しいからさ、なるべく歩きたくて」
原田「そうか」
視界の端にその櫛をとらえながらも、私は小間物屋を後にするのだった……。
──── その後も、左之さんといろいろなお店を見て回った。
せっかくこっちに来たというのに、町の様子をあまり知らないことに気づいたからだ。
今日は左之さんもいるから迷子になる心配もないし。
……というか、なんかこれ、デートみたいだ。
ふとそんなことが頭をよぎって、私はブンブンと首を横に振る。
やめろやめろ、変なこと考えるな。
原田「……ん?千鶴がどうしたって?」
名前「えっ!?……あ、そうそう!この間千鶴がね……」
話を途中で中断させてしまっていたことに気づき、私は慌てて話し出す。
………その時だった。
「 ──── お、おやめください!どうかご勘弁を!」
そんな声がどこからか聞こえ、私は思わず立ち止まる。
「その金が無ければ私どもはっ……!」
「うるせえ!尊王の志士である俺に逆らう気か!!」
「うわあああ!!」
「父上!」
私は咄嗟に、声の聞こえた方へと走り出していた。