薄桜鬼『桜恋録』1

□No.20
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土方「 ──── 苗字!!!」


名前「うわあああっ!?」




突然後ろから怒号が飛んできて、私は驚いて振り返った。

そこには、鬼のような形相の土方さんが。




名前「ひ、土方さん!?いつからそこに、」


土方「馬鹿野郎!!!何考えてやがる!!!」


名前「ひいっ!!」




大声で頭から怒鳴りつけられて、私は思わず身をすくめる。

私の脇差は、無理やり土方さんにもぎ取られた。




名前「……あ、いや、これはその、」


土方「鞘も渡せ。没収だ」


名前「………はい」




私は渋々と鞘を土方さんに渡した。




土方「どういうわけか説明しろ」




私を見下ろす土方さんの目が、怒りで燃えている。

久しぶりに土方さんの本気ギレモード見た気がする……。




名前「いや、その……みんなに迷惑かけてばっかりだし、だったら元の時代に帰ろうかなーって……」


土方「……心臓を貫けば、元いた世界に帰れるってのか?」


名前「………それは、わからないですけど………」


土方「……お前なあ、……」




土方さんは呆れたように大きなため息をついた。

そのまま土方さんは私のすぐ隣に膝を着く。


そして、



──── ふわり、と土方さんの匂いに包まれた。



………え、待って。

状況が理解できないんですが。


目の前には、見慣れた紫色の着物。


え、ちょっと待って。

これ、抱きしめられてね………?


普段の土方さんからは想像もできない行動に、私はポカンと口を開けていた。




土方「………苗字。お前が元いた世界に帰ろうが、それはお前の自由だ。……だがな、お前を必要としている奴もいるんだよ。そいつらの為にも、よく考えて行動しやがれ」




それは土方さんもですか?と聞こうとして口を噤む。

そんな事を言えば確実に私の頭に鉄拳が落ちてくるからだ。




名前「……す、すみません、でした……」




私が素直に謝れば、土方さんは何も言わずに私から離れた。

そして私の刀を持って立ち上がる。




土方「……いつでも戻って来い」


名前「……え、」




土方さんはそう言うと、部屋から出て行ってしまった。

几帳面なあの人が、障子戸を閉めずに。


……これ、来いってことだよね?

てかさっきそう言ってたもんね。


……でも迷惑じゃ、ないのかなぁ。





Wお前を必要としている奴もいるんだよ。W




土方さんの先程の言葉が脳内で木霊する。


……本当だったら、嬉しいな。

土方さんは嘘を付くような人じゃないし……。

それならちょっとだけ、あっちに行ってみようかな。




そして私は1週間ぶりに、厠と風呂以外で部屋の外に出た……。
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