五年生 短編

□双忍と
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半ば強引に押し切られたような気もしたが、香は三人で恋人になることを了承した。
実際恋人になっても、三人で出掛けたりするくらいで今までと大差はなかった。
ただ三人でいるときは必ず両手は繋いでいたし、恥ずかしげもなく二人は愛の言葉を伝えてくれた。
そんな二人に香もだんだん夢中になっていくのがわかった。
たまにどちらかが委員会や忍務などでいないときは二人になるのだが、その時はいない方の話をするほどに、三人での関係を大事にしていた。
初めての口付けは三郎だった。
これもいつのまにか二人で決めていたことのようで、雷蔵は嬉しそうに口付けをする三郎を急かすような目で見ている癖に嫉妬するような素振りは無かった。
と言っても三郎が口を離した瞬間、奪うように口付けをしてきたわけだが。

初めての口付けをすると、それ以降はなんとなくその先を意識するもので香は一人「どうするのかしら」と考えていた。

口付けのように、どちらかとする様子を側で見ているのかしら…。

そんなことを考えては顔を赤くしぶんぶんと首を振った。
はしたない、と思いつつも口付けを交わすたびに、もっと先に進んでもいいのにと思ってしまっていた。

そしてその日は思ったよりも早くやってきた。

「香さん」
「なあに?」
「今日、部屋に行ってもいい?」

雷蔵が委員会でいない時、三郎は香に聞いた。
なるほど、これも二人で決めたのかしら、と思い香は少し考えたふりをして「いいよ」と答えた。

さすがにそういうことは一人ずつよね、とホッとしたような気持ちで香は髪を梳かしながら三郎が来るのを静かに待った。
緊張しているけど、不安はもちろんあったけど、それよりも嬉しい気持ちの方が大きかった。
きっと優しくしてくれる、そう信じていた。

戸の向こうから小さな声で名前を呼ばれ、香は戸に駆け寄りそっと戸を開けた。


「…えっ?」


目を丸くした香の視線の先に、少し緊張しているような顔の三郎と雷蔵の姿があった。

「こんな時間に会うの初めてだから緊張するね」
「お風呂上がりの香さんも可愛い」
「髪まだちょっと濡れてるね」
「私が梳かしてあげる」

びっくりしている香をよそに、三郎は香を鏡台の前に座らせ優しく髪を梳いた。
雷蔵は戸を閉めて、いつものように三郎と反対側に座り香の手をとった。

「あ、あの」

香は意を決して二人に聞いた。

「…な、なんで二人で来たの?」

その質問に二人は顔を見合わせて首を傾げた。

「だって、いつもそうでしょ?」

当然、というようににっこりと笑う二人に香はがくんと肩を落とし両手で顔を隠した。

まさか、本当に、側で見られるの!?

香はまさかの展開に困惑した。
いくら恋人とは言え恋人と致しているところを見られたら恥ずかしすぎる。

「どうしたの?」
「お腹痛い?」

香の様子に二人は心配そうに覗き込む。

「…なんでもない…なんでもなくないけどなんでもないです」
「なんでもなくないんでしょ?」
「言ってくれないとわからないんだ、ごめんね」

雷蔵は察してあげられない自分を不甲斐なく思いしゅんと眉毛を下げた。

「…ごめんなさい、そういうことではなくて…その…」

雷蔵の表情に胸が痛んでしまい、香はポツポツと自分が不安に思っていることを話した。

「…その…今日は一応覚悟してはいたんだけど…あの…や、やっぱりそういう所を見られながらっていうのは…あのちょっと…」

香の説明に雷蔵はピンとこずに三郎の顔を見た。
三郎は「あぁ」と小さく呟いてクスクス笑い、雷蔵に耳打ちした。
雷蔵は三郎の説明にあははと笑い香の手をとった。

「三郎だけが来ると思ってたの?」

顔を赤くしながら頷く。

「…二人でしたかった?」

続く質問に、香は頷くことも首を振ることも出来ずに困った顔で雷蔵を見返した。

「大丈夫。二人でしてるところを見てたりなんかしないよ」

その言葉に香は少しホッとしたが続く言葉に更に不安にさせられてしまった。


「三人で、でしょ」


にっこりと笑う雷蔵と、少し意地悪な笑みを浮かべる三郎。
そして、顔を引きつらせて後退りする香がいた。
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