長編
□第二話
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忍術学園に来てから一週間。
香は毎日一生懸命働いていた。
桜もすっかり満開を迎えており、本日は学園長の思いつきで裏山でお花見をすることになった。
「そんなわけでおにぎりを大量にお願いします」
事務の小松田さんが香に告げに来たのは朝餉が終わった頃だった。
「あら、出発までに間に合うかしら」
おばちゃんと二人で慌てて米を炊き始めたが、出発までには間に合いそうにないため後で届けに行くことにした。
「わかりました〜学園長先生に伝えてきますね〜〜」
香は小松田さんを見送るとおにぎりの具の用意にとりかかった。
「香ちゃん手際が良くなったわね」
おばちゃんに褒めてもらうと嬉しくて忙しいということすら楽しく思えてきた。
「おばちゃん、河嶋さん」
お米が炊き上がる頃、食堂にやってきたのは学級委員長委員会の五年生の二人だった。
「勘右衛門くん、三郎くん」
「学園長先生に頼まれて、おにぎりを運ぶ係になりました」
「私達が運びますから河嶋さん達は手ぶらで大丈夫ですよ」
そう言って勘右衛門はドンと胸を叩いた。
「今頃委員会毎に食材の調達合戦が始まってる頃です。体育委員会あたりが猪とか捕まえてくれますよ」
「え?猪!?」
ただの花見だと思っていた香は驚いて目を丸くした。
食材をその場で調達し調理するのも修行のひとつなのだと教えてもらい、感心していた。
「私は夕餉の準備をしているから、香ちゃんは楽しんでらっしゃいな」
「えっ!?でも」
「一週間頑張ってくれていたしね、私もだいぶ楽させてもらったから。行ってきて」
「おばちゃん…」
「おばちゃんもそう言ってくれてることですし。我々がしっかりエスコートしますよ」
三郎の言葉に香もつい笑ってしまい、おばちゃん一人に夕餉の準備を任せるのも申し訳なかったが甘えることにした。
大量のおにぎりを作り、勘右衛門と三郎がそれを背負い三人は裏山へと向かった。
「重いでしょう?」
「まさか」
「これくらいで重いなんて言ってたら忍者になんか到底なれませんよ」
二人のにこにこと余裕の笑顔を見ていると、こんな普通の男の子が忍者になるのかと何だか心にぎゅっとくるものがあった。
「きゃっ」
一瞬気持ちが遠くにいったとき、足を乗せた石が転がり、身体ががくんと落ちたが驚く間も無く三郎の腕が香を支えていた。
「この辺は足場が悪くなってくるので、嫌じゃなければ手をどうぞ」
そう言って少し意地悪く笑って差し出す手を香はお礼を言って頼りにした。
「あっ!三郎ずるい!河嶋さん、俺のでもいいんですよ!?」
そう言って香の反対の手に手を差し出すから、笑ってその手をとった。
「すごく心強いわ」
そう言うと二人は顔を見合わせてから笑い合った。