長編
□第三話
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入浴を済ませ部屋に戻り、布団の中で香は今日の出来事を振り返っていた。
あの後、一年生の子たちに誘われて一緒にドッジボールをした。
疲れると二年生の子たちが相手を変わってくれた。
三年生の子たちがお茶を持ってきてくれた。
四年生の子たちが楽しい話をたくさんしてくれた。
五年生の子たちが六年生から逃げているから匿ってくれと頼りにしてくれた。
六年生の子たちが香さんに迷惑をかけるなと怒って五年生の子たちを連れて行ってしまった。
「ふふ…大丈夫だったかしら」
みんな、私が一人でいると声をかけてくれる。
困っていると助けてくれる。
頼りにしてくれている。
あの子たちが後輩を思いやるように、私もあの子たちに大切にされている。
今日一日、それがよくわかった。
新野先生の言葉が浮かぶ。
「自分で出来ることを精一杯」
「お互いを思いやり支え合う」
自分もそれが出来るだろうか、と不安な気持ちもある。
だけど、ここでなら誰も責めない。
失敗しても出来なくても、誰も怒鳴ったり殴ったりしない。
きっと、それが出来るまで優しく見守ってくれる。
だから。
「私も、今出来ることを精一杯。頑張ろう」
きっとそれが、誰かの支えになる。
そう信じて。
「明日は一年生と二年生のお弁当を作らないといけないから早く寝ないと」
こんなに穏やかな気持ちで眠りについたのはいつぶりだろう。
それを考えてるうちに、いつの間にか香は眠りにおちていた。