長編
□第四話
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香は学園長に呼び出され学園長室にいた。
そして、目の前に置かれた封筒を前に首を横に振った。
「受け取れません」
「受け取ってもらわんと困る」
「受け取れません!」
香は学園長から、給料日だからと渡された封筒を頑なに受け取ろうとはしなかった。
「ここに置いていただけるだけで充分なんです。食事もなにもかも不自由なくさせていただいて…お賃金を貰える立場ではありません」
香の言葉に学園長はどうしたものかとため息をついた。
「学園長、失礼します。…あっ!す、すみません!」
そこに松千代先生がやってきて、香がいることに気づき恥ずかしいとすぐ隠れてしまった。
「松千代先生、いい加減それやめなさい」
「す、すみません」
「ああ、ちょうどいい。松千代先生からも香さんに言ってやってください」
「な、何をでしょう」
「かくかくしかじかでな」
学園長の説明に、松千代先生は顔をお盆で隠しながら香の前におずおずと近づいた。
「香さん、あの、えっとですね、賃金というのは正当な権利であってですね」
「いただけません」
「…貰っていただかないと困ります」
松千代先生の言葉の語尾がやや強くなり、香は口を閉じた。
「…仕事に対しての賃金は、責任です。賃金をもらってる以上は仕事に責任を持たないといけません」
「でも…!」
「賃金をいただかないということは、責任の義務から逃げるということです。香さんが学園長の意にそぐわないことをされても、賃金を支払っていなければそこに口を挟むことができません」
松千代先生の言葉に香は、眉を下げ俯いた。
「私は…そんな…」
「もし、香さんの仕事ぶりに物申したい時、学園長に堂々と物申させてくれませんか?」
お盆の影からにっこりと笑う松千代先生に、香は自分がどれだけ子供っぽいことで意地を張っていたのかと恥ずかしく思った。
「…すみません、私が子供でした。…学園長先生、ありがたく頂戴致します」
香は頭を下げ、封筒を受け取った。
ほっとしたように笑う学園長と松千代先生に、香はもう一度しっかりと頭を下げた。