長編
□第五話
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あれから香は少しだけ四年生との関わり方を変えた。
かわいい弟のように思っていたが、やっぱり上級生の男子なのだから、と意識することにした。
以前のようなスキンシップはしなくなったし、あまり長く話し込んだりしなくなった。
「最近香さんは忙しそうだな」
滝夜叉丸は戦輪の手入れをしながら呟いた。
同室の喜八郎は思い当たる節があるせいで生返事しか出来なかった。
「何か知ってるのか?」
「ううん、なんにも」
「そうか…結局あの件もどうなったのかわからずじまいだしな…」
学園長暗殺未遂の件は結局有耶無耶のまま流されてしまっていた。
教師陣はきっと何か知っているのだろうとは思うが、あの先生方から情報を得るのは不可能だと四年生は諦めたからだ。
「先生達が終わったと言えば終わったんだろうさ」
三木ヱ門がそう言って、ね?サチコ?と微笑んだ。
「まあ、そういうことなんだろうけどさ。やっぱりまだ俺たちには説明もしてくれないんだな」
守一郎は悔しそうに零し、大の字になって転がった。
「三木ヱ門は悔しくないか?」
「悔しいに決まってるだろ」
三木ヱ門の返事に守一郎は顔だけあげて三木ヱ門を見た。
「…きっと六年の先輩方なら調査の手伝いくらいはさせてもらえるだろう。私たちはそれどころか、その経過、いや結果すら聞かせてもらえない。
悔しいが、それが先輩と私たちの差なのだ」
自分の拳をじっと睨みつけ、三木ヱ門は振り絞るように言った。
守一郎も自分の拳を見つめた。
「強くなればいいのか」
「ああ」
二人はぎゅっと拳を握り、がばっと同時に立ち上がった。
「行くか、守一郎」
「ああ!」
二人がドタドタと部屋を出ると隣のい組の部屋からも滝夜叉丸と喜八郎が出てきた。
「なんだ、お前達もか」
「考えることはみんな一緒か」
「ということは」
ちらっと目線を交わし、四人はにっと笑っては組の部屋を開けた。
「わあっ!な、なに!?みんなでどうしたの!?」
驚いて目を丸くしているタカ丸に、守一郎は「鍛錬に行きましょう!」と大きな声で誘った。
四人の表情でなんとなく理解したタカ丸はにっこり笑って「うん!」と立ち上がった。
「僕ついていけるかな〜〜」
楽しげに走って行く五人を見つけ、香は大きく手を振った。
ニコニコと、まるで花のように周りを明るくする香の笑顔に五人は手を振り返した。