長編
□第六話
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梅雨入りし、学園はなんとなく静かな日が続いていた。
「雨が続きますね」
「洗濯物が乾かないのが困るのよね」
「本当ですね」
香はおばちゃんとお茶を飲みながら窓の外を眺めていた。
じとっとした空気がまとわりつくようで、香は手でパタパタと仰いだ。
「あ、そうだ。金楽寺の和尚さんに水無月を届かないと」
「金楽寺?」
「そうそう。毎年お届けしてるのよ」
「そうなんですね。じゃあ今年は私が行きましょうか」
香がそう言うとおばちゃんは「あらそう!?助かるわ」と微笑んだ。
「おばちゃんの水無月美味しいですからね」
「香ちゃんの分はとっておくからね」
「あは!ありがとうございます!」
「じゃあ、土井先生に案内してもらってね」
「土井先生…ですか?」
「そうよ、1人じゃ危ないし道もわからないでしょ?」
おばちゃんの言葉に香は頷いたが、なんとなく土井先生にお願いするのは躊躇われた。
いつも忙しそうにしているし胃も痛めているのに、自分の道案内のためだけに声をかけるのは申し訳ないような気がしたからだ。
土井先生はきっと断らないだろうから、余計に。
「どうしましょう」
香はおばちゃんから託された包みを抱えて、はぁとため息をついた。
「どうしたんですか?」
そこに声をかけてきたのが雷蔵だった。
「雷蔵くん、実はかくかくしかじかで」
「なるほど。そういうことでしたら僕が一緒に行きますよ」
雷蔵はにっこり笑った。
「え?いいの?」
「ええ。もちろんです」
雷蔵の快諾に香はほっとしてお礼を言った。
門の近くで雷蔵の支度を待っていると、小松田さんが「お出かけですかぁ?」と声をかけてきた。
「小松田さん、ええ、ちょっと金楽寺までおつかいに」
「雨なのに大変ですねぇ」
「小松田さんこそ」
「僕は慣れっこですからぁ」
小松田さんと話していると、お待たせしましたと雷蔵と三郎がやってきた。
「三郎くん」
「ごめんなさい、三郎もついてくってきかなくて」
「不破雷蔵あるところ鉢屋三郎ありですから」
そう言って三郎は香が抱えていた包みをとってにっこりと笑った。
悪戯っ子のような笑顔に、香もくすっと笑った。
「では行ってきます」
三人は小松田さんに手を振って金楽寺へと向かった。