五年生 短編
□勘右衛門と
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その日香は乱太郎、きり丸、しんべヱと一緒に裏山に山菜を採りに出掛けていた。
「たくさん採れたね!きりちゃん」
「これだけあれば稼げるぞ〜!」
「香さん、ぼくよもぎ餅が食べたい」
「あ!私も!」
「そうね、じゃあ帰ったら作ってあげる」
香の言葉に三人は嬉しそうに笑って喜んだ。
「じゃあ俺はこれ売ってくる!」
「あ、ぼくも行くー!」
「私もー!」
「気をつけてね、お餅作っておくから」
走って行く三人に声をかけると、三人は大きな声ではーいと返事をしながらあっという間に町の方へと行ってしまった。
「さて、帰ってたくさん作らないと」
そう言って歩き始めたとき、香の背後から小さな鳴き声が聞こえてきた。
振り返ると罠にかかっていた子ダヌキが鳴いていた。
「あら、かわいそうに」
香がそっと近づき罠を外してあげると、子ダヌキはさっさと逃げて行った。
「怪我してないかしら」
「たぶん大丈夫ですよ」
香の独り言に答える声が上から聞こえ、香は驚いて後ろに尻餅をついてしまった。
「あぁ、驚かせちゃいましたか、すみません」
「勘右衛門くん」
大きな木の上からスタッと降りてきたのは五年生の尾浜勘右衛門だった。
「この罠は傷つけるような作りになってないし、走って行く様子も特に問題なさそうでしたから。きっと大丈夫ですよ」
「そう。ならいいんだけど」
勘右衛門の言葉にホッとしていると、勘右衛門は香の持っている籠の中身を見てにっと笑った。
「何作るんですか?」
「ああ、しんべヱくんのリクエストでね。よもぎ餅を作るつもりなのよ」
「それはいい!」
勘右衛門はにっこりと笑って急いで帰りましょうと香の手を引いた。
一見強引なように見えるがそのひとつひとつの動きはとても優しく、勘右衛門といると自分がとても大事にされていると感じることが出来る。
「勘右衛門くんはどうして裏山に?」
「七松先輩がバレーボールをしたがったので」
「あははは、なるほど。ここまで逃げてきたのね」
「逃げるというのは一見弱い一手と思われるでしょうが忍者にとっては大事なことなんですよ」
「ふふふ」
話しながら勘右衛門は自然に香の籠を代わりに持った。
会話も途切れることなく、二人は笑顔を交わした。