長編


□第二話
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「河嶋さん、大丈夫?」

勘右衛門が香を覗き込むように首を傾げる。
慣れない山道を歩く香の息はあがり、汗が頬を伝った。

「ご、ごめんね、手を引いてくれてるのに…」
「少し休みましょう。水を」

三郎は木陰に香を座らせ水筒を差し出した。

「ありがとう」

笑顔を見せてはいるが、息はあがり心臓はばくばくと激しく、汗がひかない。
勘右衛門が手拭いで汗を拭くが、よく見ると顔色が悪くなっているようだった。

「どうする?」
「ここなら学園へ戻るよりは向こうに行ってしまった方がいいだろう」
「だね。向こうには新野先生も伊作先輩もいるし」

二人の会話がすごく遠くに聞こえているようで、香は自分の体力の無さを実感していた。

「河嶋さん、たぶん少し休めば回復するって感じではないのでなるべく早く新野先生に診てもらった方がいいと思うんです」
「…ええ」
「だから、少し辛いかもしれませんがおぶっていきますね」
「え?」

顔をあげると勘右衛門の荷物を三郎が既に抱えており、勘右衛門は香の前にしゃがみこんだ。

「はい、どうぞ」
「え?で、でも私は重いし」
「さっき言ったでしょ?そんなんじゃ忍者になんかなれないって」

勘右衛門はにこにこと笑い、どうぞ、ともう一度言った。
香は三郎の手を借りて勘右衛門の背中におぶさった。

「ご、ごめんね」
「いいえ〜役得ですよ」
「余計なこと言ってないで急ぐぞ」
「はいはい。河嶋さん、ちょっと急ぎますけど絶対に落としたりしないので安心して乗っててくださいね」

勘右衛門はそう言うと一瞬早く走り出した三郎の後を追いかけた。
その速さに香は目を丸くした。
森の景色がびゅんびゅんと過ぎていき、なびく髪が下におりることがないくらいの速さ。
それなのに、不安定さは全くなく香は安心して勘右衛門の背中に身を委ねた。

「そんなにおっきくない」
「そうか。まあ、私は大きさより感度派だからな」

矢羽根でそんな会話をしてることにはもちろん気づかずに香はそっと目を閉じた。
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