短編
□手遅れ
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「海軍と海賊は必然的に、そういった関係になることは分かっています」
すくり、と彼女は立ち上がり、また戻ってきた。手には小さな鍵。この海楼石の手錠のだろう。
「…こうでもしないと、あなたは話を聞いてくれないだろうから、こうしました。………本当は殺してしまいたい位、憎いのに」
サカズキの手首を持ち上げ、鍵穴に鍵を差し込む。
「…自己満足ですから。あなたが、誰を、殺したのか。それを知らせたかっただけです」
消え入る様にごめんなさい、と呟いた後に錠を外した。
「あっ」
錠を外せばこちらのもの。彼女の手首を掴み、押し倒す。海楼石なんてものは遠くへ弾き飛ばした。
ドサリ、と押し付けられた名前は一瞬顔を顰めたが、また静かにサカズキを見詰めた。
彼女の黒い髪が散らばっている。カーテンの間から侵入する月明かりが、彼女を白く照らしている。
今夜は晴れているのか。
またぼんやりと、そんなことを考えた。
「…わしの正義は知っちょろうな」
「徹底的な正義≠ナしたね。あなたらしい」
馬鹿な女じゃ、と苦虫を潰した様な顔で言う彼に、ごめんなさい、と名前は笑った。
「海賊に恋して、愛して、それで、亡くして。…その上、夫を殺したあなたにまで………………本当に、馬鹿な女」
その言葉が引っ掛かった。
自分にまで、…何だ。
じっと彼女を見ていると、一呼吸をした名前がただ自分を見て言ったのだ。
「……好きです」
自分でも驚いているのが分かる。それと同時に、心の何処かで喜びを感じていた。
この喜びを消してしまえたらどんなに楽か。
殺そうと思えば、すぐにできるのに。いつものようにマグマに溶かすことも、細い彼女の首を絞める事も、できただろうに。
「無茶を言う…」
海賊の妻だった女なぞ、自分の正義に反するだろうが。
可能性から根絶やしにせねばならんだろうが。
海賊と交わったのかもしれん女だぞ。
「…諦めェ」
自分に言い聞かせるように、呟いた。
彼女も、自分ももう、
【手遅れ】だ。