短編

□サカズキ先生と春夏秋冬
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サカズキ先生を初めて見たのは、入学式から1週間と3日経った頃。


体育の授業で初めて会った。


生徒指導もしているサカズキ先生。

生徒からはめちゃくちゃ怖いって言われているけれど、私はそうは思わなかった。

でも、それは私がおじさんが好きとかじゃなくて。

こう…サカズキ先生のことを目にした瞬間、ビビッと来たのだ。







「おはようございます」


「おはよう」



挨拶しちゃった。声も低くて素敵。


サカズキ先生は体育科の先生なだけあって、体格はがっしりしてる。

すごく、男らしい。


「………」


…あぁ、また。


この頃、サカズキ先生のことを見ると、私の大事な所がきゅんきゅんする。

こういうことがあると、自分が女であると自覚してしまう。






今日の一時間目は体育の授業。

クラスメイトのことはあまり好きじゃないけれど、このクラスじゃなかったら、サカズキ先生の担当から外れていたので、
こういうときだけは「あぁ、このクラスで良かった」と心底思う。




「お願いします」


気怠そうな号令で始まった。
私達女子のグループは、マット運動だ。

運動は別に嫌いでもないし、人並みに出来るが、この季節にやるのがいけない。



こんな暑い夏にわざわざ冷房の効いていない柔道場で、マットに転がる。


夏は汗とか汗とかで臭いが特に酷いのに。

菌が繁殖してそうなマットも、嫌だ。




サカズキ先生は生徒が真面目に取り組んでいるかを見て回っている。

そう、ただ見て回っている。


「…」


私にはそうは捉えられないけれど。

だって、好きな人にどんな形であれ、視線を注がれているのだから。


でもあまり意識すると大事な評価に響くようなことになりかねないので、私は何も考えずに授業に取り組む。

すごい大変だけど。



開脚後転をして、顔を上げる。


「…、」


先生と、目が合った。

えっ、えっ、目…えっ。

今まで、見られてた?えっ、待って…えっ。


サカズキ先生はすぐに目を逸らしたけど、私は1テンポ遅れて時間が流れた。



「…………」


すごい、ドキドキする。


…あっ。他の子にアドバイスしてる。

偶々だよね。うん、そう、偶々。



…いいな、アドバイスしてもらってる子。







体育の授業が終わって、みな、それぞれ教室へ帰る。


次回は水泳か。

水着用意しなきゃ。

…うーん、私水泳苦手なんだよなぁ。



好きな人にカッコ悪いところ見られたくないし。

何とか上達しなきゃ。今年の夏は。





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