くさってるしょーせつ

□あらざらむこの世の外の思ひ出に
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 何年が…いや、何十年が経ったのだろうか。あの波乱の10代が終わってから。
 俺は高校に合格し、晴れて高校生となったあとも霊界探偵を続けていた。ちまちまと、だが、いいバイトである程度に。しかしそれも、大学へ入ってしまえばだんだんと呼び出される回数も減り、いつの間にかそう言った霊界に関わることもしなくなった。10年20年と時が過ぎ、気付けば会社も退職し、隠居生活となっていた。
 ずっと好きだった雪菜さんはまだ若々しく美しいままでいて、俺とは違う、同じ種族の男と結婚し、今は2児の母となっている。雪菜さんが俺に結婚報告をしてくれたときは、ものすごく嬉しかったのを今でも覚えている。
 蔵馬とは、ここ10年近く会ってもいないが、確かあまり老けていなかった気がする。人間になったとはいえ、妖怪なんだなと再確認できた。
 飛影とは、本当に、全くあっていない。最後に会ったのは15年以上前だったろうか。それも、影をちらりと見た程度。あいつも、姿形に変わりはなかった。
 そしてあいつ、ーーー浦飯とは、最後の霊界探偵としての仕事のあとから会っていない。螢子ちゃんとは会っているのか気になるが、俺のところへ来ないのは少し悔しかった。どれだけ勝ちたいと願っても、勝てなかった唯一の相手だったのに。きっとあいつも、見た目は一切変わってないのだろう。

 おそらくだが………俺たちの中でこんなにも変わったのは、俺だけだ。汚ならしく老け、力も体力もなくなり、両親も姉ちゃんも先に逝ってしまい、身内はいない。永太ーーー永吉の子供の猫ーーーもついこの間逝ってしまった。本当の、一人ぼっちだ。
幸いといっていいのか、俺は体に管を繋がれ生きている訳ではない。もしそうなるなら、俺は絶対に尊厳死とやらを選ぶ。だけどまぁ、ベッドの上から動けない、ってのは正しいか。ものをあまり食わなくなったし、霊気を体にまとうことすらできない。妖怪を見ることはでかきるが。

「…あらざらむ、この世の外の…思ひ出に」

 懐しい歌が頭をよぎった。大学受験の際、蔵馬に教えて貰った歌だ。

「いま、ひとたびの…会うことも、がな」

 確か、意味は、『私はもうすぐ死んでしまうでしょう。あの世へ持っていく思い出として、今一度お会いしたいものです』だったか。あぁ、なんて女々しいんだろうか。

 しかし、まぁ…あいたいのは、かわらないか。

「うら…め、し」

 ーーーあいてぇなぁ。…なんて。
 俺が死んだら、迎えに来てくれるのか、なんて。馬鹿馬鹿しい。

 もしも…もしも俺が死ぬときに、あいつが来るんだってなら、いっそのこと伝えてたやろうじゃないか。
「本当は、好きだった」、と。
 そんなくさくてはずかしい、あいのことばを。

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