短編

□この人なら 1
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私はこれまで恋愛に興味がなかった。

もっと言えば、興味はあったけど、みんなが言うキュンキュンだの、興奮すると言ったような気持ちになったことがない。

要するに、人間関係だけでなく、この世の中や恋愛なんて物さえいつの間にか冷めちゃってるみたい。




高校の時は、よく告られた。

男からも女からも。

断ることの方がめんどくさくて、成り行きで付き合うこともあった。

キスだって、体を重ねることだってした。



ただ、そんなことしたって気持ちは冷めたままでつまらないと相手が気づくのを待っていた。



思春期の男女なんて相手が素っ気なければ熱かった気持ちもすぐに冷めるもんだなんて実感した。






卒業して目的もなくとりあえずその辺の大学に進学した。


結局大学に来たからといって私の気持ちに大きな変化があるわけでもない。
ただ単位のために授業を受け、友達と当たり障りのない会話をし、カフェでバイトをする日々。



この生活に不満も欲もない。
きっとこのまま大学生活を送るんだと思ってた。







「本日から社員として働くことになりました山本です、よろしくお願いします。」
『あ、えっと、太田です。よろしくお願いします。』
「そんな緊張せんくてええよ!下の名前はなんていうん?」
『ゆーりっていいます』
「ゆーりちゃんな!しっかり覚えるわ!」


いつも通りバイトに入ろうとしたらショートカットの耳に掛けた髪の隙間から3つのピアスが光る、私より身長の低い大人な女性に声を掛けられた。


そういえば来週から新しい人が入るって店長が言ってたような気がする。

とはいえ、ただの新しい社員さんであって私にはなんの関係もない。


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