短編
□この人なら 2
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「『 いらっしゃいませ〜 』」
「あ、私が行くからええで」
初めて山本さんとシフトに入り、気づく。
この人、めちゃめちゃいい人だってことに。
今までの社員さんは基本アルバイトの人を働かせようとしてくるからお冷を運ぶのも注文を聞きに行くのもだいたいは私がやっていた。
でも、この人は違う。
今もこうやって率先してお冷を持って行ってくださるし、普通の大人とは違うってすぐに思った。
割と今日は混んでたからシフトの時間内に山本さんと話すことはないまま今日のバイトを終えた。
なぜか分からないけどちょっと安心してる自分がいた。
閉店後、山本さんは店長に呼ばれて話してたから軽い挨拶だけをしてお店を出た。
すっかり日が沈んで、暗闇の中を一人歩く。
私はこの感覚が好きだ。
バイト後の程よい疲労感にやっと一人になれたという気持ち、見上げればすべてが真っ黒で自分の存在がとても小さく思える。
根暗な私がさらに強調される。
きっとバイト後にカラオケに合流したり、オールで遊んでるような子には分からない感覚なんだろうな。
「ゆーりちゃーん!!」
「ゆーりちゃーん!」
どこからか名前を呼ばれた気がして後ろを振り返ると、山本さんが小走りで駆け寄ってきた。
『あ、お疲れ様です。』
「おつかれさん!」
びっくりして、お疲れ様なんてありきたりな言葉しか頭に浮かばなかった。
「お店出たら、まだゆーりちゃんらしき背中が見えたから走ってきちゃった!」
身長差のせいか、自然と上目遣いになるその目に見つめられ、うれしそうに話すからなぜか私も笑みがこぼれた。
『ははっ、私そんなに歩くの遅かったですかね?』
「そうかもな、なんかショボンって感じやったよ?」
『あながち、間違ってないかも知れないですね。』
「案外、雰囲気通りの子やな。」
駅に着き、また簡単な挨拶をして別れる。
普通の大人と話してたら相談乗るよとかすぐ言ってきて、重めな会話になってしまうのにやっぱりこの人は違った。
肝心なところは踏み込んでこないし、常に笑ってる。会話を楽しんでるのが伝わる。
私、人に興味持ったことあったっけ?
この人とならもっと話したい、なぜかそう思えた。